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IT翻訳者Blog

主にIT、英語、翻訳の話題を書いています。

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日本通訳翻訳学会で発表します(9/7 日曜)

日本通訳翻訳学会の「第2回 通訳翻訳テクノロジー研究プロジェクト」で研究発表をします。
立教大学で9/7(日)です。参加申し込みなどはこちらのページからできます。

発表内容は、ローカリゼーション実習ソフトウェアについてです。
(上記リンク先には「ExpnseRecorder」とありますが、「Expense Recorder」という名前です)
このソフトウェア自体の使い方と、ローカリゼーション(L10N)やインターナショナリゼーション(I18N)の概要を説明する予定です。

このソフトウェアは去年開発したのですが、いくつかの大学の翻訳関係の授業で使っていただいています。
私のウェブサイトから無料でダウンロードできるので、翻訳者(や翻訳学習者)が個人で試したり、企業の研修や学校の授業で使ったりできます。このウェブサイトにも使い方を説明していますが、よく分からなければ発表会においでください。

ちなみに9/2(火)にも、日本翻訳連盟(JTF)の説明会で似たような内容の発表します。

以上です。
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最も小さく定義した翻訳能力とは

翻訳者にとって必要な能力(competence)は何かという議論はさまざまあります。

前回の記事では、特にローカリゼーション分野におけるテクノロジー知識について部分的に取り上げました。翻訳者であれば、言語に加え、専門分野(医薬、法律、特許など)やら、コンピューター操作やら、ビジネス(経理など)やら、さまざまな知識が必要になるわけです。こういった知識は時代とともに移り変わります。

必要な知識を挙げていけばいくらでも挙げられるが、では翻訳をする上で「核」となる能力は何か、という議論があります。
翻訳理論の探求』で知られるアンソニー・ピム氏は、いろいろと皮を剥いでいって最後に残る最も小さなのもの(minimalist)として次の2つを挙げています。
- The ability to generate a series of more than one viable target text (TTI, TT2 … TTn) for a pertinent source text (ST);
- The ability to select only one viable TT from this series, quickly and with justified confidence.

 Redefining Translation Competence in an Electronic Age. In Defence of a Minimalist Approach
 http://www.erudit.org/revue/meta/2003/v/n4/008533ar.html

つまり、
 ・1つのソース・テキスト(原文)から、成立しそうなターゲット・テキスト(訳文)を複数生成できる能力
 ・そこから迅速かつ自信を持って1つだけを選び出せる能力
です。
これらが純粋に翻訳のみ(専門分野の知識などを除いた)に関わる能力であると定義しています。

例えば「hello」という英語があった場合、「こんにちは」とも「いらっしゃいませ」とも「もしもし」とも訳せます。電話をしているという状況であれば、普通は「もしもし」あたりを選ぶでしょう。

これらはなかなか興味深い定義です。例えば後者のみに目を向けると、翻訳メモリや機械翻訳が提示する訳文から1つ選ぶというのも翻訳になりそうです(好む好まないは別として)。

以上です。
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翻訳者に必要なテクノロジー知識

特にローカリゼーション分野の翻訳者にとって「テクノロジー」の知識は重要です。

ローカリゼーション教育について触れている書籍としては現在最も新しいと思われる『Translation and Web Localization』では、翻訳者(ローカリゼーション専門家)に必要なテクノロジー能力として、以下の項目を挙げています。1〜19の数字は便宜上、私が付けました。

  1. 基本的なコンピューター・スキル(ワードプロセッシング、ファイルの扱い方、異なるファイル・タイプ、インターネット通信など)

  2. 翻訳で使うテクノロジー・ツールの理解

  3. 翻訳メモリー・ツールの知識。タグ編集ツールによるハイパーテキストの処理も含む

  4. ローカリゼーション・ツールの知識

  5. ウェブ開発ツールの知識

  6. CMS(Content Management System)の知識

  7. 用語マイニング・ツールの知識

  8. 用語管理ツールの知識

  9. 品質管理のプロセスおよびツールの知識

  10. マークアップ言語、HTML、XML、CSSなどの基本的な知識

  11. スクリプト言語の基本的な知識(西野注:JavaScript、Perl、PHP、Rubyなど)

  12. XLIFF、TMXなどの互換標準に関する基本的な知識

  13. ローカリゼーション・プロジェクトで扱われるファイル形式に関する十分な知識

  14. 文字セット、ユニコード、ユニコードのロケール・リポジトリーに関する知識

  15. コーパス分析ツールに関する知識

  16. 埋め込み画像の編集用ツール

  17. データベースの構成と、多言語プロセスでデータがどう使われるかに関する知識

  18. コンテンツ制作に使われるテクノロジーと、翻訳対象と対象外とを切り分けるテクノロジー

  19. 機械翻訳のポストエディットのプロセス


いくつもありますが、私なりに大きく分けると以下の2種類がありそうです(1の基礎スキルは両方に関連しそうなので除外)。

  • 人間の翻訳を支援するテクノロジー(上記2、3、4、7、8、9、12、13、15、19)

  • テクスト表示の仕組みに関するテクノロジー(上記5、6?、10、11、14、16、17、18)


前者は翻訳メモリーなどで、翻訳業界では「テクノロジー」だとして広く認識されています。これは間違いなく重要です。
後者の「テクスト」とは、文字列に加えてアイコンや画像など、ユーザーに表示されるあらゆる要素を指すこととします。これに関するテクノロジーには、例えばウェブで使われるHTMLあたりがすぐに想像できます。こちらも翻訳業界でテクノロジーであると認識されていますが、前者ほど注目されているようには思えません。翻訳テクノロジーの話を聞きに行くと、たいていTM(翻訳メモリー)やMT(機械翻訳)関連が中心です。

現在、私が問題だと感じているのは、後者に関する教育が疎かになっているのではないかという点です。
例えばウェブでもアプリでも、ユーザーがログインしたときに「ようこそ、nishinoさん!」といったメッセージが表示されることがあります。これは「ようこそ、%sさん!」というメッセージの「%s」の部分にユーザー名である「nishino」が動的に入力されて表示されているわけです。ユーザー名が入るまでは「ようこそ、%sさん!」という文字列(%sはプレースホルダーと呼ばれる)があるのみで、翻訳者はこの文字列を見て翻訳します。当たり前ですが、印刷されている紙で動的に文字が入って表示されるといったことは起こりません。
つまり、このようなテクスト表示の仕組みはデジタル情報に特有であり、特にこれから電子書籍などが増えることを考えると、翻訳者は理解しておくことが必要でしょう。

以下の図は、TC学術研究会で発表した資料の一部です。従来の紙と違い、ウェブやソフトウェアでは「土台」で情報(の一部)が動的に生成され、それが表面に現れて来ます。図の赤い部分です。上記のプレースホルダーは、表面に現れて来る情報を入れ込むための仮の場所です。



翻訳者はこのような「テクスト表示の仕組みに関するテクノロジー」について理解しておくことが望ましく、ローカリゼーション教育にも取り入れられるべきだと考えます。
しかし、具体的にどこまで知っていれば十分なのか、まだ分かっていないようです。例えば「スクリプト言語の基本的な知識」が挙げられていますが、何をもって「基本的」と言うのでしょうか。例えばJavaScriptを学習する場合、必要な知識はウェブ・プログラマーやウェブ・デザイナーとは違うでしょう。どの知識が必要でどれが必要でないのか、今後吟味が求められそうです。

以上です。

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筆者について
西野 竜太郎
(Ryutaro Nishino)

IT分野の英語翻訳者でソフトウェア開発者。社会人学生として東京工業大学の博士課程でヒューマン・コンピューター・インタラクション(HCI)とソフトウェア・ローカリゼーションの研究も。
著書に『アプリケーションをつくる英語』(リンクは下の画像)。

詳しいプロフィールや連絡先はこちらをご覧ください。
著書
アプリケーションをつくる英語

紙版
『アプリケーションをつくる英語』

電子版
『アプリケーションをつくる英語』
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