rnishino

IT翻訳者Blog

翻訳、英語、ローカリゼーション、インターナショナリゼーションなどについて書いています。

24 7月

CSS組版で書籍を出す

自社で出版事業をしており、今月「プログラミング英語教本」という書籍(電子+紙)を出した。

いま出版事業をやろうと思ったら紙版だけではビジネス的に厳しく、電子版も出す必要がある。紙版の場合、一般的に版面のレイアウトはページごとに実施する。ところが電子版では、ページというより、画面に合わせて文字数が変わる点(リフロー)を考慮しなければならない。

Kindle本を買うと、よく「固定レイアウト」になっている書籍がある。あれは紙版を先に作ってページ単位でレイアウトしたため、リフロー対応していない(できていない)ということである。しない大きな理由の1つはコストで、ただでさえ売上が減りつつある書籍で、2度レイアウト費用を捻出するのは厳しいのかもしれない。

そこで紙版を作ってから電子化するのではなく、逆にまず電子版を作り、それを紙版にも対応させると考えたときに出てくるのが、「CSS組版」という方法である。名前の通り、ウェブページ制作で用いるCSSを使って印刷用に組版をする。

今回の自社書籍で、この「まず電子版、そこから紙版」というフローを採用した。紙書籍の売上が厳しくなりつつあるという出版状況を考えると、従来とは逆となる、こういったフローを採用する出版社は増えるような気もする。



今回の作業フローは以下の通りだった。

1. 原稿をテキスト・ファイル(.txt)で作る
2. そこから電子書籍となるePubを作る。ePubはHTML+CSSなので、まずここでCSSでのレイアウトが発生する
3. このePubから、他の形式の電子書籍(Kindle、PDF)も生成する
4. 続いて紙書籍向けにePubのCSSを少し修正する(ページ番号追加など)
5. そのePubから印刷用PDFを生成する
6. 印刷用PDFを印刷所に送って印刷してもらう(カバーなどは別途作る必要)

このうち、ステップ4〜5で使うのがCSS組版用のソフトウェアである。今回は無償で提供され、日本語処理も考慮されている「Vivliostyle」を使わせていただいた。



上記のフローで作った電子書籍(ePub)と印刷用PDFとを比較してみる。たとえば目次を見ると、ePubでは以下のようになっている。リフローなので、章タイトル対して固定的なページ番号は表示されていない。章タイトルをクリック(タッチ)すれば該当部分にジャンプする。

epub

一方で、CSS組版をした印刷用PDFを見ると、章タイトルの右にきちんとページ番号が挿入されている。紙書籍であればページ番号は必須である。

pdf-print

このように、大部分が同一のCSSを使って、リフロー型電子書籍も紙書籍も作れるのがCSS組版のメリットである。「まず電子版、そこから紙版」というフローにも対応できる。

もちろん、あらゆる利用場面でCSS組版が有利なわけではないし、できないことはある。たとえば複雑になりがちな雑誌のレイアウトには向かないかもしれない。しかし書籍のように、文字が主体で流し込んでレイアウトできるようなケースでは利用を検討してもよいだろう。

なおVivliostyleのウェブサイトにはいくつかサンプルが掲載されている。これを見ると、何ができるのかがよく分かる。
16 7月

「プログラミング英語検定」正式版開始/団体受験モニター募集

自社で制作している「プログラミング英語検定」のベータ版が終了し、正式版が7/15に開始となりました。



これに関し、ICT教育ニュースで記事にしていただきました。

 グローバリゼーションデザイン研究所、「プログラミング英語検定」正式版を開始
 https://ict-enews.net/2020/07/16globalization/



記事中にもありますが、現在「団体受験のモニター(試用者)」を募集しています。
これはアンケート回答を条件に、企業や学校向けに10〜50人分の受験チケットを提供するというものです。
もし自社や自校で実施したいという方がいらっしゃったら、こちらからご応募ください。8月末が締切です。

以上です。
30 6月

「リンギスト」を考える

海外の翻訳業界において「linguist」という職業名はよく見かける。翻訳作業に加え、対訳用語集管理や品質保証など、複数言語に関わるさまざまな仕事をする人を指す。現代の翻訳サービスにおいて欠かせない仕事をしている。しかし日本において「リンギスト」という呼称はあまり聞かない。圧倒的に「翻訳者」が多い。

これを言うと関係者から嫌がられそうだが、翻訳業界はずっと「外国語を使う憧れの仕事・翻訳者」というイメージでビジネスをしてきた。翻訳者になるための講座や情報誌を用意し、厳しいトライアルに合格した人と「翻訳者」という肩書で取引契約をする。もちろん多くの職業にもそのような面はあるし、自分自身も乗っかっている部分はあるので、批判するわけではないが。

「翻訳者」には堅固なイメージがあるため、たとえば対訳用語管理のような仕事があったとしても、「自分は『翻訳者』だから翻訳しかしない」と避けたり、「『翻訳者』でお願いしている手前、用語管理は頼みづらい…」と翻訳会社が躊躇したりする。要するに翻訳者という肩書は、実際のビジネス需要と乖離してしまっている恐れがある。

では、対訳用語管理や品質保証のような仕事はどう扱われているかと言うと、「翻訳の周辺業務」という位置づけである。しかしこれも「翻訳が一番尊い」というイメージから生まれた位置づけに過ぎない。たとえば大規模な翻訳プロジェクトの場合、用語やスタイルの決め方ひとつで、翻訳成果物全体の品質が変わってくる。また、翻訳者の訳文の品質保証をするなら、その誤りを指摘できる程度に翻訳ができなければならない。つまりリンギストの仕事内容は、周辺業務どころか、翻訳サービスにおける中核なのである。



このようにリンギストは重要な役割を担っているのにもかかわらず、仕事の価値はあまり認められていないし、IT化された現代の翻訳サービスの実態とも乖離が生じている。また「リンギスト」という呼称も、日本の翻訳業界内ですら定着していない。

そこで、リンギストの仕事の内容やその重要性を発信するためにウェブサイトを作成した。今後、情報を充実させる予定である。

 https://linguist.work/

※ 上記ウェブサイト上にも書いてありますが、リンギストの仕事をしている人や興味がある人でゆるく意見交換をするために、Facebookのグループを作成しました。関心がある方はご参加ください。非公開グループなので、企業勤務の方もどうぞ。
★最新刊★
プログラミング英語教本 『プログラミング英語教本』
筆者について
西野 竜太郎
(Ryutaro Nishino)

翻訳者/著者/リンギスト。日本翻訳連盟・理事。
プロフィールや連絡先などについてはこちらをご覧ください。
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