rnishino

IT翻訳者Blog

翻訳、英語、ローカリゼーション、インターナショナリゼーションなどについて書いています。

10 4月

連載「ITエンジニアが芭蕉と学ぶ英語構文」が始まりました

会社ブログで「ITエンジニアが芭蕉と学ぶ英語構文」という連載を始めました。

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「おくのほそ道」の道中で、松尾芭蕉にIT英語を教えるという内容です。
毎週火曜日に更新予定です。

第1回は「可能(1)と『月日は百代の過客』」というタイトルで、可能の意味を表す英語構文を取り上げています。
11 3月

JTFジャーナルの連載「翻訳品質のランチボックス」は最終回

JTFジャーナルの連載「翻訳品質のランチボックス」が最終回を迎えました。294号の「第8回:仕様とJTF翻訳品質評価ガイドライン」という記事です。
JTF会員でなくても、アカウントを作成するとPDF版を無料で読めます(無料期間の終了時期は未定)。またJTF会員には近日郵送されるはずです。
リンクはこちら:https://journal.jtf.jp/



記事の内容を簡単にまとめると次のようになります。
現在海外では、翻訳成果物の要件などについて受発注者が合意して作成する「仕様」の考え方が広まりつつあります。仕様には納期やワード数などの情報に加え、品質評価時の項目(エラー・カテゴリー)や合否しきい値などについても盛り込みます。本年中の完成を目指す「JTF翻訳品質評価ガイドライン」でも仕様に基づく評価方法をベースにしながら、日本語に対応したエラー・カテゴリーを提示します。



なお、同号特集「ニューラル翻訳を超える未来へ」では、長尾真氏と賀沢秀人氏(グーグル)が対談をしています。これは現在のニューラル機械翻訳(NMT)の解説というより、その「次」を語るという内容です。
印象深かった部分を1つ挙げてみます。

長尾:<中略>あるいは完全に使うためにはテキストの情報だけじゃなくて、テキストが発話された環境や状況を追加する必要があるのではないかと思います。
今のディープラーニングでやる機械翻訳のクオリティをもうひとつ超えるためには、たとえば今対話しているこの状況に関する情報が欠けている面があるからだめなんじゃないかという気がしてまして、<後略>

本ブログでも何回か書いています(下記リンク参照)が、「翻訳」はテキストに書かれた情報だけでできるわけではなく、テキスト外部にある文脈や状況に関する情報を取り込む必要があります。しかし現在までの機械翻訳(ルールベースも統計もニューラルも)では、テキストに書かれた情報しか利用していません。
人間はテキスト外部の情報も取り込んで「翻訳」できます。もちろんダメな翻訳者は文法に従って単語を組み替えるようなこともしますが、少なくとも人間にはテキスト外部の情報を取り込む能力はあります。

人間がしてきた翻訳を「翻訳」と呼ぶなら、機械翻訳がやっていることは実はまだ「翻訳」ではありません。テキスト外部の情報も取り込んで初めて「翻訳」と言えるはずです。
対談にあるように、そちらの方面に研究が進むのだとしたら、実に楽しみです。

<本ブログの関連記事>
ホフスタッター氏による機械翻訳考察(2018-02-05)
機械翻訳は「翻訳」をしていない(が役に立つ)(2017-12-01)
機械で「翻訳」をしているのか(2016-03-18)

以上です。
16 2月

翻訳業界のトライアル制度は改善できるか

フリーランス翻訳者として翻訳会社と取引をしたい場合、翻訳業界では「トライアル」を受けることが一般的だ。簡単に言うと翻訳試験で、これに合格すると翻訳会社に登録でき、仕事をもらえるようになる。私自身も20年近く前にトライアルを受けて翻訳者になった。

トライアルという慣習あるいは制度は翻訳業界に浸透しており、当たり前のことなので根本的な部分で疑問を呈する業界人はあまりいない。本記事ではトライアル制のメリットとデメリット、さらに現在のトライアル制を改善するアイデアを書いてみたい。


◆トライアル制のメリットとデメリット

業界全体として見たとき、トライアル制度の最大のメリットは、各翻訳会社のニーズに合致した翻訳者と取引できる点にあると思う。
翻訳会社はソース・クライアントから仕事をもらい、それをさらに翻訳者に依頼する。そのためクライアントの特徴や好みに合った翻訳ができる翻訳者を必要としている。だからトライアルではクライアントからもらう仕事に近い原文が出題されるケースが多い。そういったトライアルを通れば、翻訳会社にとっては戦力となる。
(たまにトライアルで不合格になって落ち込む人もいるが、翻訳力がないというよりも、単に「好みに合わなかった」ということもあるので、それほど悲しむ必要もない)

一方でデメリットは、翻訳会社と翻訳者が一対一で試験を受けることになるため、大きなマッチング・コストがかかるということだと思う。
たとえば翻訳者aが取引先を広げたい場合、翻訳会社A、翻訳会社B、翻訳会社Cとそれぞれのトライアルを受けなければならない。
翻訳会社から見ても同じである。A社は課題を作った上で、翻訳者a、b、c、d、e、f…から送られてくる解答を採点することになる。候補者を絞るために「翻訳実務経験◯年以上」と受験資格を限定する会社も多い(そのため未経験だが有能な翻訳者を獲得する機会を逸している)。
現在のトライアルはそれぞれが一対一の試験になるため、業界全体で見ると、膨大な数のトライアルが発生していることになる。翻訳会社と翻訳者をマッチさせる機能があるので、マッチング・コストと考えられる。図にするとこうなる:



上記のメリットとデメリットをまとめると、各翻訳会社のニーズに合った翻訳者と取引できる一方で、大きなマッチング・コストがかかるということである。


◆トライアル制をどう変えるか

マッチング・コストを低減させるのに有効なのは、外部に「共通試験」のようなものを設けることだと思われる。これにより、各翻訳者は1回共通試験を受けるだけでよいし、翻訳会社は自社でトライアル課題を作る必要も、各翻訳者を採点する必要もない。再び図にするとこうなる:




ただしこの場合、マッチング・コストは下がるものの、「各翻訳会社のニーズに合った翻訳者と取引できる」という最大のメリットも無くなってしまう。共通試験で出題できるのは、いわゆる最大公約数的な問題だからだ。
そのため、メリットは残しつつ、マッチング・コストを部分的にでも下げられるという仕組みが望ましい。共通試験がトライアルを完全に代替するというより、一部のみを担うということだ。たとえば考えられるのは、
・共通試験合格者は、簡易版トライアルを受けられる
・共通試験合格者は、実務経験なしで本トライアルを受けられる
といった使い方だろうか。


◆ほんやく検定の果たす役割

もし翻訳者と翻訳会社とをつなぐ共通試験になり得るとすれば、それはやはり日本翻訳連盟(JTF)が実施している「ほんやく検定」だと思われる。というのも、JTF会員はフリーランス翻訳者と翻訳会社から成るためだ。そのため両者をつなぐ共通試験として受け入れられやすい。

ただし、共通試験になる条件としては、検定の問題が実際のトライアルに近い内容である必要があると思われる。そういう内容になって初めて(一部だけでも)トライアルを代替できる。
私は現在JTFの理事であるため軽率なことは言えず、個人的な意見ということになるが、その方向についても模索したいと考えている。

(※ 図はAutoDrawで書きました。)
著書
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達人出版会刊
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