rnishino

IT翻訳者Blog

翻訳、英語、ローカリゼーション、インターナショナリゼーションなどについて書いています。

19 7月

翻訳業界が社会にアピールすべき価値

昨日翻訳業界の会合に参加したところ、翻訳業界を社会にどうアピールし、認知してもらうかという話題が出た。

僕は「原文を作る段階から最終読者が読む段階まで」が産業翻訳が扱う範囲だと考えている。
もちろん案件で違いはあるが、基本的なプロセスは以下を想定している。

  1. クライアント企業で原文を作成

  2. 翻訳会社で翻訳前作業(翻訳者割り当て、資料やツールの準備、MT適用など)

  3. 翻訳担当者が翻訳作業

  4. 翻訳会社で品質保証(最終読者を想定した確認も含む)


だから機械翻訳(MT)システムからの出力だけが翻訳ではないし、翻訳者の訳出作業だけが翻訳でもない。クライアントも読者も巻き込み(通常読者の参加は難しいが)、プロセス全体を経て成果物を出して初めて産業翻訳の仕事になると思う。
いまMTが注目されているので、MT出力だけを社会にアピールしてしまうと、このプロセス全体を認識してもらえない。

単に飲み物を出すだけであれば自動販売機でも可能だ。そのため「飲み物を出す」という点だけに注目してしまうと、「喫茶店なんて自動販売機で代替できるんでしょ?」と考える人はいるはずだ。でも実際は自動販売機が普及しても喫茶店はなくならない。自動販売機では100円で飲料が買えるのに、なぜその何倍も払って喫茶店に入る人がいるのか? それは喫茶店は単に飲み物を出しているだけでなく、別の価値も提供しているからだ(コーヒーを飲みながら読書できたり、人と待ち合わせできたり)。

同様に、もし「翻訳業界=訳文を出す」と社会に認識されてしまうと「翻訳業界なんてMTで代替できるんでしょ?」と思われてしまう。
やはり翻訳業界が社会にアピールすべきは単に「訳文を提供する」という点ではなく、「最終読者であるユーザーや消費者の満足を高め、クライアント企業の利益やイメージアップに貢献する」といった点だと考える。
(もし単に訳文を出して欲しいだけであれば、Google翻訳などを使ってもらえばよい)

僕自身は翻訳会社におけるMT活用について反対ではないのだが、MTは人間翻訳者を代替できるものではない。人間は同じ人間である最終読者に(たとえば)共感し、そういった視点で訳文を確認できる。あるいは分野専門家の視点で訳文内容をチェックできる。だから代替というより、プロセス全体の中で持ち場あるいは役割が違うと考えている。

そこで最初の問いに戻り、翻訳業界をどう社会にアピールするかを考えた場合、単に「訳文を出す」仕事をしているわけではなく、最終読者の満足度向上なども含めたプロセス全体を通じ、クライアント企業に貢献していると伝えるべきではないかと思う。
18 7月

新しくIT的な意味が追加された英単語

英語辞書を出版しているオックスフォード大学出版局は毎年「今年の英単語」を発表している。
そのような英単語以外にも辞書には言葉が追加され続けており、同局のOxford Advanced Learner's Dictionary(OALD。オックスフォード現代英英辞典)に過去数年間で追加された言葉は以下にまとめられている。

 Recent Additions to OALD
 https://www.oxfordlearnersdictionaries.com/wordlist/new_words

中にはテクノロジーの進展などで新たな意味が追加された言葉もある。
特に私の専門であるITと関連したものをいくつか見てみたい。

◆ 2018年10月追加

fulfilment[名詞]フルフィルメント
https://www.oxfordlearnersdictionaries.com/definition/english/fulfilment(4番目の意味)

インターネット通販における受発注や発送などの業務全体のこと。アマゾンなどがフルフィルメントの代行サービスを提供している。
もともとは(約束などの)「履行」や「遂行」という意味。

◆ 2018年3月追加

curator[名詞]キュレーター
https://www.oxfordlearnersdictionaries.com/definition/english/curator(2番目の意味)

自分の知識に基づき、特にインターネット上で記事や写真などを選んで投稿する人のこと。
もともとは博物館などの「学芸員」。

ghost[動詞]連絡を断つ
https://www.oxfordlearnersdictionaries.com/definition/english/ghost_2(3番目の意味)

人間関係を終わらせようと、オンラインでの連絡を断つこと。
この言葉は私は初めて聞いた。
もともとは名詞で「幽霊」だが、動詞だと「ゴーストライティングをする」意味らしい。

unicorn[名詞]ユニコーン企業
https://www.oxfordlearnersdictionaries.com/definition/english/unicorn(2番目の意味)

時価総額が10億ドル以上の新興企業のこと。IT関連企業が一般的。
もともとは「一角獣」。

◆ 2017年10月追加

crawler[名詞]クローラー
https://www.oxfordlearnersdictionaries.com/definition/english/crawler(3番目の意味)

ウェブ上で情報を取得して回るプログラムのこと。
crawlは「はう」という動詞(水泳の"クロール"もここから)なので、もともとは「はいはいする赤ちゃん」とか、イギリスでは「おべっか野郎」とかいった意味。

◆ 2017年3月追加

deprecate[動詞]非推奨にする
https://www.oxfordlearnersdictionaries.com/definition/english/deprecate(2番目の意味)

ソフトウェアの古い機能などに関して、使用はできるものの、控えるべきだとすること。
もともとは「非難する」という意味。
翻訳者になりたての頃、この単語を見て訳すのにとても困ったことを思い出した。「非推奨」という訳語を作った人はすごい。

◆ 2016年3月追加

MVP[名詞]
https://www.oxfordlearnersdictionaries.com/definition/english/mvp(2番目の意味)

Minimum Viable Product(実用可能な最小限の製品)のことで、小さいが使えるソフトウェア製品をまず作り、そこから徐々に改善するケースで使われる言葉。
もともとと言うか、MVPとしてよく知られているのはスポーツにおけるMost Valuable Player(最優秀選手)だろう。

◆ 2015年12月追加

build[名詞]ビルド
https://www.oxfordlearnersdictionaries.com/definition/english/build_2(3番目の意味。2〜5が新規追加)

通常は開発途中にあるソフトウェアのバージョン。
buildと聞くと、すぐに動詞(建設する)が頭に浮かぶ。しかし名詞もあり、1番目の意味は「体格」らしい。
またリンク先には載っていないが、ゲームにおける「キャラクターの育成方法」もbuildと呼ばれる。


level[名詞](ゲームの)レベル
https://www.oxfordlearnersdictionaries.com/definition/english/level_1(7番目の意味)

日本語で言うところの「面」や「ステージ」を指す。RPGなどにおけるキャラクターの"レベル"ではないので注意。
もともとは「水準」といった意味。


この記事は以上です。
1 7月

JTF翻訳祭2019に登壇します

翻訳業界における最大のイベント「翻訳祭」が2019年10月24日(木)にパシフィコ横浜で開催されます。

 https://www.jtf.jp/29thfestival/

7/1〜9/30までは早割期間で、参加費が通常の半額になります。
また同期間にJTFへの入会金がゼロになるキャンペーンをしています。会員になればさらに会員価格で翻訳祭に参加できます。
フリーランス翻訳者だけでなく、会社などに所属している方ももちろん入会できるので、この機会にぜひどうぞ。



私は2セッションに登壇する予定です。

・JTF翻訳品質評価ガイドラインの基本(11:30〜13:00 )
昨年11月に公開した同ガイドラインを解説します。
ガイドライン本体の説明に加え、実際に出席者と一緒にサンプルを評価してみます。
(今年2月に開催した翻訳品質セミナーとほぼ同内容となるので、すでにこちらに参加された方は別のセッションを見ることをお勧めします)

・UI翻訳は何が違うのか?(14:20〜15:50)
今まで「UI翻訳」はIT分野の翻訳者が担当してきました。ところが昨今はスマートフォンなどの普及によってさまざまなものが「アプリ化」されており、IT分野以外の翻訳者でもUIの翻訳をする話を聞くようになりました。たとえば医療関連アプリを医薬分野の翻訳者が訳すようなケースです。
そこで、UI翻訳はほかと比較して何が特殊なのか、UIをどう翻訳すればよいか、といった点について発表します。
共同で発表するYAMAGATA INTECH株式会社の古河さんは、企業におけるUI翻訳の実例などを紹介する予定です。



どのセッションも面白そうな内容ですが、特に私の専門との関連で言うと「アジャイル開発時代の翻訳プロセス」(9:30〜11:00)に興味を覚えました。
サイボウズ社でどのように翻訳(ローカリゼーション)のプロセスを回しているか、自社システムの紹介などと併せて解説してくれるようです。


以上です。
★最新刊★
プログラミング英語教本 『プログラミング英語教本』
筆者について
西野 竜太郎
(Ryutaro Nishino)

翻訳者/著者/リンギスト。日本翻訳連盟・理事。
プロフィールや連絡先などについてはこちらをご覧ください。
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