先日アドビが Flash の iPhone 対応を打ち切りましたが、これに関連してスティーブ・ジョブズが声明を出しています。

Thoughts on Flash
http://www.apple.com/hotnews/thoughts-on-flash/

以下はこの声明の参考訳です。
正式な情報はリンク先の英文にあたってください。
(短時間で訳して推敲もしていないので、訳文がこなれていなくてもご容赦ください。内容が誤っている場合はコメントをください。)

◆◆◆

Flash に対する考え方

Apple と Adobe の間には長期の関係があります。実際 Apple は、Adobe の創業者が例のガレージにいる頃に出会いました。Apple は Adobe にとって最初の大口顧客であり、Adobe の Postscript 言語を Apple の新しい Laserwriter プリンタに採用しました。Apple は Adobe に出資し、何年にもわたり約 20% の株式を保有していました。両社は緊密に連携して DTP の分野を切り開き、良い関係を保った時期がありました。その黄金期が去ってのち、両社の関係は遠のきました。Apple は瀕死の体験し、Adobe は Acrobat 製品でビジネス市場に力を入れました。現在でも両社は協力してクリエイティブ分野の顧客に製品を提供しています(Adobe Creative Suite 製品の購入者の約半分は Mac ユーザー)が、それ以外に共通の利害はほとんどありません。

なぜ Apple が Flash を Phone、iPod、および iPad に許可しないのかという理由をお客様や評論家によりよく理解していただけるよう、Apple の Adobe Flash 製品に対する考え方の一部を簡単に示したいと思います。Adobe は、Apple の決定は主にビジネス上の理由であると述べています。Apple が App Store を守りたい、という主張です。しかし実際は、技術上の問題が原因です。Adobe は、Apple のシステムはクローズドであり、Flash はオープンであると言いますが、事実は逆です。詳しく説明させてください。

(1) 「オープン性」に関する問題

Adobe の Flash 製品は 100% プロプライエタリ(自社独占)です。Flash 製品は Adobe からのみ入手可能で、将来の機能拡張や価格決定などについて Adobe が単独で権限を保有しています。Adobe の Flash 製品は誰でも入手できますが、これはオープンであることを意味しません。なぜなら、Flash 製品はすべて Adobe が管理し、Adobe からしか入手できないからです。どのような定義を用いても、Flash はクローズドなしステムなのです。

Apple にもプロプライエタリの製品はあります。iPhone、iPod、および iPad の OS はプロプライエタリですが、Web に関するすべての標準はオープンであるべきだと考えています。Apple は Flash を使うのではなく、HTML5、CSS、および JavaScript を採用しています。これらはすべてオープンな標準です。すべての Apple のモバイル デバイスでは、高いパフォーマンスと低い電力消費が実現できるような方法で、これらオープンな標準を実装しています。Apple や Google など多くの企業が採用している新しい Web 標準である HTML5 があれば、Web 開発者はサードパーティ製のブラウザ プラグイン(Flash など)を使うことなく、高度なグラフィックス、タイポグラフィ、アニメーション、およびトランジションを制作できます。HTML5 は完全にオープンであり、(Apple もメンバーとして参加している)標準化委員会が管理しています。

Apple は Web 向けのオープンな標準も生み出しています。例えば、Apple は小規模なオープン ソースのプロジェクトを立ち上げて WebKit を作りました。これは完全にオープン ソースな HTML5 対応レンダリング エンジンで、当社の全製品で利用されている Safari Web ブラウザの心臓部です。この WebKit は広く採用されています。Google が Android のブラウザに使っているほか、Palm や Nokia が使っていますし、RIM(Blackberry) も将来使うと発表しています。Microsoft を除いてほとんどすべてのスマートフォンの Web ブラウザで WebKit を使用しているのです。Apple は WebKit テクノロジをオープンにすることで、モバイル Web ブラウザの標準を作り上げました。

(2) 「完全な Web アクセス」に関する問題

Adobe は、Web 上のビデオの 75% が Flash であるため Apple のモバイル デバイスは「完全な Web アクセス」ができていないと繰り返し述べています。Adobe が触れていないのは、こういったビデオのほぼすべてがより新しいフォーマットである H.264 でも入手でき、iPhone、iPod、および iPad で視聴できる点です。推定で Web 上のビデオの 40% を占める YouTube は、すべての Apple モバイル デバイスにバンドルされているアプリケーションで見ることができます。YouTube の検索と視聴の環境としては、恐らく iPad がこれまでで最高のものを提供しています。これに加え、Vimeo、Netflix、Facebook、ABC、CBS、CNN、MSNBC、Fox News、ESPN、NPR、Time、The New York Times、The Wall Street Journal、Sports Illustrated、People、National Geographic などなど数多くのビデオが見られます。iPhone、iPod、および iPad のユーザーはそれほど多くのビデオが見逃しているわけではないのです。

もう 1 つの Adobe の主張は、Apple のデバイスでは Flash ゲームが遊べないということです。これは事実です。しかし幸運にも App Store には 50,000 を超えるゲームやエンターテイメントのタイトルがあり、その多くが無料です。iPhone、iPod、および iPad では、世界中のどのプラットフォームよりも多くのゲームとエンターテイメントのタイトルを入手できるのです。

(3) 信頼性、セキュリティ、およびパフォーマンスに関する問題

最近 Symantec は、Flash はセキュリティに関して 2009 年に非常に悪い記録を残していると特筆しています。そもそも当社は Flash が Mac がクラッシュする原因の第 1 位であることを知っています。Apple は Adobe とこういった問題を解決しようと協力してきましたが、問題は何年も解決できないままです。Apple としては iPhone、iPod、および iPad に Flash を搭載することで信頼性とセキュリティを低下させたくありません。

これに加え、Flash はモバイル デバイスでパフォーマンスがよくありません。Apple はいつも Adobe に、どのモバイル デバイスでもいいので、その上で Flash がうまく動作することを見せてくれと数年間言い続けています。しかし、まだ見るにいたっていません。Adobe は、Flash が 2009 年の早い段階にスマートフォンで提供できると発表しました。次に 2009 年の下半期、その次は 2010 年の上半期、そして現在では 2010 年の下半期だと言っています。最終的には提供されるのでしょうが、息を止めて待っていなくて良かったと思います。どのくらいのパフォーマンスを発揮するのか、誰にも分かりません。

(4) バッテリー持続時間の問題

ビデオ再生時に長いバッテリー持続時間を実現するには、モバイル デバイスはハードウェアでビデオをデコードしなければなりません。ソフトウェアでデコードすると消費電力が大きすぎるのです。現在のモバイル デバイスで使用されているチップの多くには、H.264 と呼ばれるデコーダが搭載されています。H.264 は業界標準であり、Blu-ray DVD プレイヤーで使われていたり、Apple、Google (YouTube)、Vimeo、Netflix などの企業に採用されたりしています。

Flash は最近 H.264 のサポートを追加しましたが、Flash を使うほぼすべての Web サイト上のビデオで、現在は旧世代のデコーダが必要です。この旧世代のデコーダはモバイルのチップに実装されておらず、ソフトウェアで動かさなければなりません。この差は非常に大きいです。例えば iPhone では、H.264 ビデオは最大で 10 時間再生できますが、ソフトウェアでデコードしたビデオは 5 時間もしないうちにバッテリーが完全になくなってしまいます。

各 Web サイトで H.264 を使ってビデオを再エンコードすれば、Flash をまったく使うことなくビデオを公開できます。こういったビデオはプラグインのようなものがなくても Apple の Safari や Google の Chrome で完全に再生でき、iPhone、iPod、iPad でもきれいに見えます。

(5) タッチに関する問題

Flash はマウスを使う PC 向けに設計されていて、指を使うタッチ スクリーン向けに設計されているわけではありません。例えば、多くの Flash Web サイトで「ロールオーバー」を多用しています。マウス カーソルが特定の部分に当たるとメニューなどの要素がポップ アップ表示されるのです。Apple の革新的なマルチタッチのインターフェイスではマウスを使わないため、ロールオーバーという考え方がありません。ほとんどの Flash Web サイトでは、タッチ ベースのデバイスに対応するために書き直しが必要になるでしょう。仮に開発者が Flash Web サイトを書き直さなければならないのであれば、HTML5、CSS、JavaScript といった最新テクノロジーを利用してみたらどうでしょう?

もし iPhone、iPod、および iPad で Flash が動くにしても、タッチベースのデバイスに対応するためにほとんどの Flash Web サイトを書き直さなければならないという問題は解決しません。

(6) 一番重要な理由

こういった Flash がクローズドでプロプライエタリである点、技術的な弱点がある点、タッチベースのデバイスに対応していない点よりももっと重要な理由により、Apple は Flash を iPhone、iPod、iPad に許可していません。ここまで Web サイトでビデオやインタラクティブ コンテンツを提供するのに Flash を使う場合の欠点について述べてきましたが、Apple のモバイル デバイス上で動作するアプリを制作するのに、Adobe は開発者に Flash を採用してもらいたいと考えているのです。

Apple は過去の苦い経験から、プラットフォームと開発者の間にサードパーティ製ソフトウェアのレイヤーを入れると、標準に満たないアプリケーションが生み出され、最終的にはプラットフォームの改善と進化が阻害されると分かっています。開発者がサードパーティ製の開発用ライブラリやツールに依存するようになると、プラットフォーム強化の恩恵に与れるのは、そのサードパーティが新しい機能を採用した場合のみになってしまいます。Apple は、開発者が Apple 製品の機能強化をいつ利用できるようになるのかという判断を、サードパーティに委ねるわけにはいきません。

これはサードパーティがクロス プラットフォームの開発ツールを提供している場合、さらに酷くなります。サードパーティはサポート対象のプラットフォームすべてで利用できなければ、あるプラットフォームの機能強化を採用しないかもしれません。その結果、開発者は共通する機能セットしか利用できません。繰り返しますが Apple は、他社のプラットフォームで利用できないという理由で、Apple の革新的機能や機能強化を開発者が利用できなくなる事態を受け入れるわけにはいきません。

Flash はクロス プラットフォームの開発ツールです。Adobe の目標は、開発者が最高の iPhone アプリ、iPod アプリ、iPad アプリを制作できるようにすることではありません。開発者がクロス プラットフォームのアプリケーションを作れるようにすることが目標です。そして Adobe は Apple のプラットフォームに機能強化を導入するのに、苦痛を感じるほど時間をかけています。例えば Mac OS X は約 10 年ほど販売されていますが、Adobe が完全に対応(Cocoa)したのは、CS5 を発売したたった 2 週間前のことです。Mac OS X に完全に対応している主要なサードパーティ開発者としては、Adobe は 最後になりました。

Apple の動機はシンプルです。最も進んでいて革新的なプラットフォームを開発者に提供したい、開発者がこのプラットフォーム上に直接乗って今まで世界になかった最高のアプリケーションを作ってもらいたい、ということです。人を驚かせ、強烈で楽しく、その上便利なアプリケーションを開発者が制作できるよう、Apple はプラットフォームを継続的に改善したいと思っています。みんなが勝者になるという状況です。Apple は最高のアプリを揃えているのでデバイスがさらに売れ、開発者はもっと多くの利用者や顧客にリーチでき、ユーザーは他のプラットフォームよりも豊富かつ優れたアプリを入手できるのでずっと満足できます。

結論

Flash は PC の時代に、PC とマウス向けに作られています。Flash は Adobe にとってうまくいっているビジネスですが、それをなぜ PC の外にまで広げたいのかが理解できません。Flash は Adobe にとってうまくいっているビジネスなので、なぜ PC の外にまで広げたいのかよく分かります。
モバイルの時代には、低消費電力のデバイス、タッチ インターフェイス、それにオープンな Web 標準が重要です。これらはすべて Flash が不得意とする領域です。
Apple のモバイル デバイス向けにコンテンツを提供している数多くのメディア企業を見ると、Flash はビデオを見たり Web コンテンツを楽しんだりするのに必須ではないことが証明されています。また Apple の App Store にある 200,000 のアプリを見ると、数万人の開発者にとって、ゲームなどグラフィックを多用するアプリケーションを制作するのに Flash は必要ないことが実証されています。

HTML5 など、モバイルの時代に作り出された新しいオープンな標準は、モバイル デバイスで支持を得るでしょう(PC でもです)。恐らく Adobe は、将来に向けて優れた HTML5 ツールを作ることに注力すべきで、Apple が過去と手を切ったことを非難するのに力を入れるべきではないでしょう。

スティーブ・ジョブズ 2010 年 4 月

◆◆◆

2010/4/30: 「結論」冒頭部分に誤りがあったので修正しました。コメントしてくださった one さんありがとうございました