最近ソフトウェア ローカリゼーション分野で「アジャイル」という言葉を聞きます。その手のブログ記事をよく見かけますし、私も以前からいくつか記事を書いています(これこれ)。アジャイルは単なる流行りと考えている方もいるかもしれませんが、ソフトウェア ローカリゼーション(以下、ローカリゼーションと略)にとっては大きなパラダイム シフトでしょう。というのも、ソフトウェア開発の方法自体が変わりつつあるからです。

ローカリゼーションというビジネスが成立した当時、ソフトウェア開発の方法は「ウォーターフォール型」が主流でした。これは前もって厳密に計画や設計を行い、それに基づいて開発していく方法で、基本的には前に戻りません(Wikipedia 解説)。ローカリゼーションも設計に基づいて開発とほぼ同時に行われることになります(多少のずれはあるでしょうが)。つまり、ステップが明確なウォーターフォール型の開発プロセスでは、ローカリゼーションという作業を切り分けて外注することができたのです。マイクロソフトや IBM のようなソフトウェア会社から翻訳会社にドキュメントと用語集が渡され、それがさらに(二次請け、三次請けを経たりしながら)フリーランスの個人翻訳者に出されます。これができるのはウォーターフォール型の「基本的に前に戻らない」という方法のおかげです(設計時に決めた用語が途中で変更されたりすると、末端ではてんやわんやです)。数年に一回程度 CD-ROM でアップデート版が出されるようなソフトウェアが以前はよくありましたが、ああいうのがウォーターフォール型でローカライズするソフトウェアの例です。

Facebook などの Web アプリケーションやゲームを使っていると、当然ですが CD-ROM でアップデートはしません。サーバー上にソフトが置いてあるので、随時更新されます。SNS のソーシャルゲームは一日に数回アップデートすることもあるようです。こういったアプリケーションの多くは「アジャイル型」で作られています(Wikipedia 解説)。ウォーターフォールのように長期の計画を立てて徐々にこなしていくというより、状況に合わせて短期(1 〜数週間程度)の計画を繰り返していく方法です。この場合、ウォーターフォール型のように外注するのは非常に難しくなります。翻訳会社にドキュメントを渡し、それがさらに下請けやフリーランスに回っている間に 1 週間などという時間は過ぎてしまいます。実際、Facebook にゲームを提供していることで有名な Zynga では日本に 5、6 名ほどの翻訳者を常駐させ、その場で翻訳をしているという話です。とても外注などはできないのでしょう。アジャイルで開発されるソフトウェアをローカライズする場合、「外注」ではなく「常駐」が基本だと思います。

つまり、現在ローカリゼーションで「アジャイル」が注目されるのは、単なる流行りなのではなく、ソフトウェア開発手法そのものが変わりつつあるからなのです。もちろん従来のウォーターフォール型がなくなるわけではありませんが、ソフトウェアは徐々に Web 上に置かれ、アジャイルで開発して随時更新されるようになっています。さらに Web アプリケーションの場合、CD-ROM を世界的に流通させらないような小規模な会社でも提供できます。当然翻訳ボリュームも小さいので、商売としてはあまりおいしくないでしょう。

従来のローカリゼーション ビジネスは、大きなソフトウェア会社がウォーターフォール型で開発していたからこそ成立した」とまで主張したら言い過ぎでしょうか。先に述べたようにウォーターフォール型開発が全く消えることはないでしょう。しかし、これまでと同じように大きな企業がまとめて外注すると考えていたら、翻訳会社もフリーランスも苦しいかもしれません。