横浜で開催されていた「組込み総合技術展」でUX(ユーザー・エクスペリエンス:ユーザー体験)のセッションに出てきました。

面白い話題が多かったのですが、興味を覚えたのは「デンソー」のUXの取り組みです。デンソーはトヨタなどに冷房機器といった部品を提供していて、ビジネスの大部分がいわゆるB2Bのようです。つまりエンドユーザーとは直接取引していない。これまでの研究開発では、機能や性能(要するに「提供側」の視点)で差別化しようとしていたものの、最近ではユーザー体験で差別化しようとしているようです。


今の翻訳業界(ここでは翻訳者と翻訳会社を想定)もB2Bが基本です。翻訳者は翻訳会社が直接の顧客であり、翻訳会社はソースクライアントが顧客です。エンドユーザーである読者と直接に触れ合うことはまずありません(もちろん皆無ではない)。

納品された翻訳を評価する場合、例えば誤訳の有無などのほかに、スタイルガイドや用語集に準拠しているかといった点で判断します。誤訳はもちろん困りますが、スタイルガイドや用語集への準拠というのは、実のところエンドユーザーのためというよりも、翻訳会社やソースクライアントが「翻訳資産」の価値を高めるために使っている側面があります。スタイルガイドや用語集に準拠した訳文をデータベース(翻訳メモリ)に貯めておけば、繰り返し利用できるわけです。

要するに、エンドユーザー(の体験)というより、基本的に直接の顧客である翻訳会社やソースクライアントを見ているということです。まあ、これはビジネスなのですから非難するつもりはありません。ただ、上記のデンソーの例のように、提供者側の視点ではなくユーザー体験を重視するという方向があっても良いのではと感じます。


翻訳のUXを考える上で興味深い例があります。
2009年にmixiというSNSで「サンシャイン牧場」というゲームが流行りました。もともと中国製だったので日本語に翻訳されました。そうしたところ…
また、サン牧内の言葉は基本的に中国語の直訳になっており、日本語としてやや不自然なところも目立つ。だが、一風変わった日本語が一部では「サン牧語」と呼ばれて人気なのだという。「一度正確な日本語に訳しなおしたら、ユーザーに『戻してくれ』と言われ、戻したことがあるんです。
http://ascii.jp/elem/000/000/477/477173/index-2.html

つまり提供側は「翻訳の質は低い」という評価をしていたので改善したはずが、実はUXが下がってしまったということです。

このようにエンドユーザーまで視野に入れると、翻訳業界は新しい世界が見えてくるのではないかと思います。