ローカリゼーションはニッチな分野なのか、なかなか良い概説書がありません。日本語だと1999年に『ソフトウェアローカリゼーション実践ハンドブック』が出て以来、まとまった資料はないはず。同書も今は絶版です。ローカリゼーション分野は翻訳業界でビジネス的にかなり大きなシェアを占めるのに、どういうわけでしょうか。
(『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか? 』はローカリゼーションを扱っていますが、直接には翻訳業界向けではありません。)

そうなると英語の資料を当たる必要がありますが、英語でも一般向けはそれほど多くありません。いまだに2000年の『A Practical Guide to Localization』や2009年の『The Game Localization Handbook』あたりです。研究論文集みたいなのは出ていますが。

そういった中で、2013年に出た『Translation and Web Localization』はウェブ・ローカリゼーションを中心としつつ、ローカリゼーションに関するさまざまな話題を扱っています。
基本的に「翻訳学」との関わりが強いため、実務家が読んで役立つような内容ではありません。ただし、学術面からのアプローチでローカリゼーションを調べたい場合には恐らく必読書だと思われます。

目次と内容をざっと紹介すると…

第1章:The emergence of localization
過去20年間のローカリゼーションの歴史などの説明。

第2章:The web localization process: from GILT to web usability
ローカリゼーションのプロセス。GILT(Globalization, Internationalization, Localization, Translation)の説明。

第3章:Web localization and text
翻訳学で重要な「テクスト」という概念。

第4章:Web localization and digital genre
同じく翻訳学で重要な「ジャンル」という概念。ソース言語でもターゲット言語でも、そのジャンル特有の表現などを知っておかないとうまく翻訳できません。例えば法律関係や技術関係の文書にはジャンル特有の表現があるわけです。英文法ができても専門分野の翻訳ができるわけではない。

第5章:Web localization and quality
実務でも大事な「品質」についてです。さまざまな基準などが紹介されているので、学術面に興味がない人でもここは役立つかもしれません。

第6章:Web localization and empirical research
実証研究の方法についてです。

第7章:Web localization and training
教育やトレーニングについてです。ここは個人的に興味を覚えました。
ローカリゼーションは、言語に加えてテクノロジーに関する知識が必要である点が、従来の翻訳と異なるような話が出てきます。

第8章:Future perspective in localization
クラウドソーシング翻訳や機械翻訳など、将来の展望です。


そもそもタイトルが「Web Localization」で、ウェブ・ローカリゼーション中心となっているのは、ソフトウェア・ローカリゼーションに比べて翻訳業界で市場シェアが高いからのようです(まあ、今はワード数で売上が決まるモデルがメインなので、コンテンツが多いウェブのシェアが高くなるのは当然でしょうが…)。ただしソフトウェア・ローカリゼーションとの比較もあり、こちらに興味がある人にもとっても有用です。

上記の通り、実務畑の人が読んですぐ役立つ内容ではありませんが、学術的にどうローカリゼーションにアプローチしているか知りたい場合には役立ちます。Kindle版なら3,000円ちょっと。

Translation and Web Localization
Miguel A. Jimenez-Crespo
Routledge
2013-11-07



以上です。