通訳・翻訳ジャーナル 2017年春号」に去年の翻訳祭で登壇した際のレポート(p.20)が掲載されています。
ありがとうございました。



ところで口調は変わるのだが、同誌に翻訳業界の動向が掲載されていた。2016年に需要が減ったランキングのトップが「コンピュータ(ソフト)」らしい。

15年はMicrosoft Windows 10のリリースがあったので「コンピュータ(ソフト)」の需要が高く、16年はその反動で需要減になったのかもしれない。

という分析が書かれている(p. 66)。

この分野、つまりIT翻訳は、2000年代が需要のピークだったと聞く。それ以降は右肩下がりで、今では業界で「オワコン」(終わったコンテンツ)という扱いをされることも珍しくない。

しかしIT翻訳の需要は本当に減っているのだろうか?
最近はスマートフォンが普及し、誰もがアプリ(ソフト)をダウンロードして使っている。1人1台のスマホ時代に、IT翻訳需要が増えることはあっても、減っているとはとても思えない。

実のところ需要が減ったというのは、「翻訳会社に流れる量が減った」というだけのことなのではないだろうか。

ここ10〜15年くらいで、ソフトウェア開発手法自体が変化してきた。かつては「ウォーターフォール型」が主流で、大きなソフトウェア(例えば上記のWindowsなど)は数年かけて開発された。翻訳は開発終盤でまとめて行われる。つまりある時期に大量の翻訳需要が発生し、数か月かけて「ソフトウェア会社→翻訳会社→翻訳者→翻訳会社→ソフトウェア会社」と納品される。

しかしその後は「アジャイル型」が広がってきており、小さな機能を開発して数日〜数週間程度でリリースする。つまりまとまった量の翻訳需要は出づらく、しかもリリースサイクルが短いため、翻訳会社→翻訳者という時間がかかるフローは採用しにくい。あるとしても少量短納期だ。
アジャイル時代には、ソフトウェア会社で内製したり、直に翻訳者に出したりした方が対応しやすいのだ。

要するに「IT翻訳自体は健在なのだが、時代の変化によって翻訳会社に流れにくくなった」という面があるのではと考える(※)。
逆に言うと、翻訳会社は時代の変化に対応できていないということだ。

現在翻訳業界は「ワード単価」によるビジネスが主流だ。例えば1ワード10円の場合、20ワード訳すと200円ということだ。
以前から言っているが、このワード単価制もモバイルとアジャイルの時代に不向きだ。
スマホのアプリは画面が小さく、文字数は少ない。また文字数を稼げるマニュアルもないことが多い。つまりワード単価では翻訳会社は儲からない。
またアジャイルでは少量短納期のため、翻訳会社はオペレーションにコストがかかり過ぎる。

こういった時代の変化に対応できなければ、翻訳会社におけるIT翻訳需要は減り続けてもおかしくない。


※ ほかにはもちろん機械翻訳の発展などの要因もあるだろう。