ヨーロッパの翻訳業界調査がEUから公開されている。ただし2016年4月のものらしいので若干古い。

Expectations and Concerns of the European Language Industry 2016
https://ec.europa.eu/info/file/48725/download_en?token=IRG49ADH(PDFファイル)

詳細は上記PDFを読んでもらうとして、個人的に気になったデータやグラフをいくつか引用する。
(回答者数は445で、うち293が翻訳会社、107が個人、30が企業などの翻訳部門、11が学校、3が翻訳ツール・プロバイダーなどとなっている。また翻訳会社の75%は従業員20名未満という小さな規模らしい。要するに、小規模翻訳会社が回答全体に強く影響している)


・翻訳分野


法律文書(Legal services)が最も多い。特許もここに入っているのかもしれない。
日本で調査すると、科学・工業技術文書、ビジネス文書(契約書・金融・経済含む)、コンピュータ(ソフトウェア・ハードウェア・ローカリゼーション)が「3大分野」らしい(JTFジャーナル記事)。

あと、ヨーロッパではEUでかなりの翻訳需要が発生する。Wikipediaの「欧州連合の言語」ページには以下の説明がある。
翻訳などの多言語主義政策の維持に毎年11億2300万ユーロ

11億2300万ユーロは約1,400億円である。日本の翻訳市場が2,600億円程度なので、なんと約半分ほどに相当する。(EU関係は図のGovernmentに含まれるのかもしれないが、はっきりしない。)

ちなみに世界の翻訳市場で、ヨーロッパは約54%、北米は35%、アジアは10%ほどのシェア(参考資料)だ。ヨーロッパの翻訳市場がいかに大きいかが分かる。


・機械翻訳


6割が機械翻訳を導入していない。
翻訳会社の規模が小さければ小さいほど、導入率は低いようだ。
ヨーロッパ言語間では精度が高いため導入が進んでいるという印象があった。


・翻訳修士号(EMT)の認知度と採用時の考慮


何年か前に、ある日本の大学関係者から「ヨーロッパでは修士号がないと翻訳者として採用されませんよ」みたいな話を聞いた。
ところが実際に採用で考慮している企業は2割程度じゃないか……。
そりゃ、まず実力がないとダメだろう。


・課題とトレンド


2大課題は、「MT(機械翻訳)」と「値下げ圧力」らしい。
MTは値下げにつながるので、結局はMTが根本的な課題ではないかと想像する。