翻訳業界にとって、目下のところ最大の脅威はGoogle翻訳などの「無料の機械翻訳サービス」だろう。テキストをコピー&ペーストしてボタンを押せば訳文が出て来る。
これは蛇口をひねれば水が出てくるのと同じようなものだ。何年か前にTAUSのJaapさんが「Utility」(電気・ガス・水道みたいなサービス)と呼んでいた(記事)がまさにそれである。


(絵はAutoDrawで書きました)

では、無料機械翻訳サービスが広がれば、翻訳業界(翻訳会社、翻訳者)は不要になるのだろうか?
少なくとも当面はあり得ない話だろう。
以前も別の記事に書いたが、現在の機械翻訳の評価対象は「翻訳」の1面に過ぎない。翻訳は、1文単位の対訳データで完結するような知的活動ではないのだ。

しかし現実世界では、無料の機械翻訳サービスで十分な場面も多い。
そうなると、翻訳業界はいかに無料の機械翻訳サービスと差別化するかが課題となる。
水道をひねれば、ほとんど無料で水が出てくる。一方で、スーパーに行くと500mlが100円のミネラルウォーターが売っている。
つまり、翻訳業界はミネラルウォーターに相当する翻訳を売れるか?、ということである。



こちらも以前の記事で書いたが、翻訳会社の重要な機能として「品質保証」がある。翻訳業界が差別化要因とすべきは、この品質保証であると私は思う。
品質の高い「良い翻訳」が何であるかは、分野(広告や特許など)によっても違うし、文脈によっても違う。こなれた日本語が好まれることもあれば、原文が透けて見える直訳調が好まれることもある。
要するに、「良い翻訳」は文脈(テキスト外部の状況)によって異なり、現在の機械翻訳ではそれに対処できない。そこで人間の判断が不可欠となる。

高度な文脈判断を行い、それを訳文に反映させて確実に「良い翻訳」として提供することが、無料機械翻訳サービスとの差別化要因だと考えるのである。