先日、知り合いから「西野さんは『翻訳者登録制度』に批判的なんですか」と聞かれて驚いた。この制度はフリーランス翻訳者にとってメリットがあり、良いものだと考えている。良いと考えるからこそ慎重に吟味すべきで、それが批判的という印象を与えたのかもしれない。

そもそもなぜこのような制度ができる流れになったのか、ISO 17100との関係を中心に見てみる。

  • 2015年に発行されたISO 17100は翻訳サービスの規格を定めている

  • 翻訳会社は、ISO 17100に基づく翻訳サービス案件(以下、便宜的に「ISO案件」)をハイエンドに位置づけている。つまりこれによって差別化を図って収益を向上させたい(→ 結果的には翻訳者にも恩恵がある)

  • ISO案件では、ISO 17100に定められた要件を満たした翻訳者(以下、便宜的に「ISO翻訳者」)を使う必要がある

  • 翻訳者は、自分がISO翻訳者であることを、各翻訳会社に確認してもらってもよい

  • しかし取引のある複数の翻訳会社に資料(卒業証明書など)を送るには手間がかかる

  • もしどこか1か所にISO翻訳者であることを登録できる場所があれば、各翻訳会社はここを参照すればよいだけとなるので、便利だ


このような流れから、ISO翻訳者であることの登録を一元化できる「翻訳者登録制度」ができたと考えられる。

以下にJSAのウェブサイトから関係図を引用する。特に注意したいのは、翻訳者が登録するのは、各翻訳会社ではなく日本規格協会という点だ。


(引用元:http://www.jsa.or.jp/guide/rcct.html<参照日:2017-04-29>)

同制度はISO 17100の流れからできており、基本的にISO案件を扱う場合にのみ関係する。ISO案件ではない通常翻訳案件では、同制度の利用は必須ではない。

ただし、ISO案件に関わらない場合でも、翻訳者が同制度で登録しておくメリットはある。
以前も紹介した川村インターナショナルのブログ記事によると「有資格翻訳者の情報は日本規格協会のWebサイト上に公開」されるらしい。つまり第三者に翻訳者としての実績を証明してもらえるのだ。だからこの登録をトライアルに代える翻訳会社が出てくる可能性もあると同記事では言っている。
最上位のAPTは2年で25,000円という費用がかかるが、日本規格協会のウェブサイト上に名前が載れば、フリーランス翻訳者が下手なホームページを作って宣伝するよりよほど効果があるのではないか。ホームページを運用するサーバー代だって毎月かかる(月1,000円なら2年で24,000円)。

まとめると、翻訳者登録制度はISO案件に関わる場合はもちろんのこと、フリーランス翻訳者が実績を第三者に証明してもらえる点でもメリットがある。これはISO案件ではない通常翻訳案件でも効果を発揮する可能性がある。
しかも同制度を使うか使わないかは、まったくの自由だ。制度を使わなければ社会的に「翻訳者」を名乗れなくなるわけではないし、制度の利用が法律で義務とされているわけではない。

こういった理由から、翻訳者登録制度はフリーランス翻訳者にとって良い選択肢になると考える。



次回の「JTFジャーナル」(#289)では同制度の特集が組まれる。また5/31には東京で説明会がある(チラシPDF)。