2017年版のヨーロッパ翻訳業界調査が先月公開されたようだ(ちなみに以前の記事で2016年版を紹介している)。
ヨーロッパは翻訳市場としては世界最大で、ヨーロッパにおけるトレンドや取り組みは、日本でも大いに参考になる。

2017 Language Industry Survey
http://ec.europa.eu/info/sites/info/files/2017_language_industry_survey_report_en.pdf(PDFファイル)

GALA、EUATC、eliaなどの業界団体に加え、今回からFITも協力しているため、個人翻訳者からの回答も多かったようだ。
全文は上記PDFで確認していただくとして、本ブログ記事では個人的に気になった項目をいくつか見てみたい。

◆個人翻訳者の売上

2万5千ユーロ(約300万円)未満が最も多い。いわゆる先進国ばかりではないので、この層が多いのではという解説があった。


◆翻訳分野
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翻訳会社も個人も法律(Legal)の割合が高いが、個人(Indep. Prof.)は相対的に多い。さらに行政(Government)も個人が相対的に多いようだ。一方で製造業(Manufacturing)や自動車(Automotive)は会社が多いので、この辺りは事業規模の違いかもしれない。


◆所属する業界団体(企業)

やはり企業はEUATC、Elia、GALAあたりが多いようだ。
重複の扱いは不明。「Business」は一般的なビジネス団体らしい(例:東京商工会議所)。


◆所属する業界団体(個人)

個人は入っているとすればFITが多いが、そもそも入っていない人も多い。


◆価格

このグラフは若干読みにくいが、翻訳価格の実際(Real)と予想(Expected)が翻訳会社(LSC)と個人(Ind. Prof.)別に書かれているようだ。
実際を見てみると、個人は毎年数パーセント程度低下しているが、会社は毎年10〜25パーセントも落ちている。
単価が上がらないことを嘆く個人翻訳者の話をよく聞くが、上流(翻訳会社)ではもっと厳しい。


◆増やす外注形態

グラフに詳しい説明がないのだが、翻訳会社がこれから増やしたい外注形態だと思われる。
言語タスクのアウトソーシング(一番左)が最も多いが、徐々に減る傾向にある。社内翻訳を増やそうということなのだろうか。
また、クラウドソーシングは2015年に頭打ちになっている。クラウドソーシングでは必要な品質を確保できないと判断したのかもしれない。


◆機械翻訳(MT)を使う翻訳会社

翻訳会社における機械翻訳の利用は、規模で違うようだ。


◆CATやTMSを使わない企業


こちらも企業規模で違うようだ。


◆MT、CAT、TMS以外に使っているテクノロジー

品質管理(例:タグ破損や数字転記ミスを検出)が多く、その次が音声入力のようだ。個人翻訳者がキーボード入力の代替として使うのだろう。用語(Terminology)はほとんど使われていない。


◆EMT(ヨーロッパ翻訳修士号)の認知

「知らない」が過半数、「知っていて採用時に考慮する」はたった13パーセントだ。
ISO 17100による翻訳者要件の1つめは「翻訳の学位」で、このEMTあたりが想定されていると思われる。
しかし、これを採用に考慮する翻訳会社は少ない。大学院で1〜2年程度学んだだけでは実務レベルにはならないし、現場に入ってから学ぶことが多いということだろう。
以前のブログ記事にも書いたが、フリーの実務翻訳者を目指すなら「社会人経験を積みながら翻訳学校 → 翻訳会社やクライアント企業 → 独立」というルートが最も安全、安価、確実だと思われる。


◆就職時に求められる能力やスキル(言語担当者)

翻訳者など言語担当者の場合、母語能力、外国語能力、翻訳能力の3つがCritical(青い部分)とされている。CATスキルなどもImportant(赤い部分)とされているが、これは必要になれば比較的短期間で習得できる。まずはCriticalの3つに注力すべきだろう。


◆翻訳会社の課題とトレンド
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(クリックで拡大)
2017年で多いものを4つ挙げると、
・納期の圧力(Time pressure)
・価格の圧力(Price pressure)
・品質要求(Quality requirements)
・差別化(How to differentiate oneself)
のようだ。一般的な企業とそれほど変わらないかもしれない。


◆業界のトレンドと関心事

やはり機械翻訳(MT)のようだ。


実は「CAT USER RIGHTS AND OWNERSHIP」という項目もあった。翻訳資産(例:翻訳メモリー)の権利は誰が持つかという調査のようだ。非常に興味深かったのだが、表の読み方がよく分からなかったので、ここで紹介していない。