先日(6/7)、日本翻訳連盟(JTF)の総会で承認していただき、理事に就任しました。

JTFは翻訳会社と個人翻訳者の両者が参加している翻訳業界団体です。
私は「産業翻訳は、翻訳者による実作業だけでは完結せず、原文が書かれるところから訳文が使われるところまでのプロセス全体を対象にしなければならない」と考えています。そのため、両者が参加するJTFは大きな役割を果たすはずです。

理事としては特に「翻訳品質」に取り組みたいと思っています。
機械翻訳の精度が向上したとされている現在、「何をもって良いとするのか?」という品質基準の確立は翻訳業界にとって重要です。きちんとした品質基準がないと、翻訳成果物は一緒くたにされてしまう可能性があります。何とか日本語になっている程度の訳文も、時間をかけて丁寧に作った訳文も、十把ひとからげです(※)。
これは翻訳業界にとって悲しい事態ですが、顧客側にとっても不便が生じます。例えばお金がかかっても優れた翻訳が欲しいという場面で、選択肢を見極める手段がないのです。要するに品質基準がないと、翻訳業界自身も顧客も困るのではないかと感じます。

JTFでは今年度から「翻訳品質委員会」が始まりました。私も一委員として参加しています。
「標準スタイルガイド検討委員会」からの改称ですが、扱う範囲は広くなっています。翻訳品質の要素としては、スタイルのほかに、例えば「用語」や「流暢さ」といった要素があります。こういった品質全体を視野に入れるつもりです。

翻訳品質委員会としては、まず翻訳品質のガイドラインの策定に取り組む予定です。
ガイドラインといっても、業界全体で均一の品質を目指そうというわけではありません。何かしら「目安」や「基準」を持とうという程度です。
例えば、プロの翻訳サービスをまったく使ったことのない新規顧客がいた場合、どの程度やってもらえるのかという目安がないと、怖くて発注できないかもしれません。「無料の機械翻訳と何が違うの?」という質問にも明確に答えられません。
また業界で品質の目安があると、例えば翻訳会社Aは「うちは目安に加え、こういうことをしています」、翻訳会社Bは「うちは目安にこれとこれを追加しているので、その分料金が高いです」といったサービス展開ができます。要するに、差別化の基準として使えるわけです。
このように、ガイドラインがあると、業界全体として新規顧客を獲得したり、各翻訳会社が自社の特徴を出す手段となったりするのではと期待しています。結果として翻訳業界が活性化すればうれしいことです。
ただし、この辺りは個人的なイメージで、まだ委員会として何かを決めたわけではありません。

とりあえずの理事任期は1年ですが、上記の通りまずは「翻訳品質」について取り組みたいと考えています。


※ ちなみにISO 17100は翻訳の「サービス」が対象であり、翻訳成果物(プロダクト)そのものの品質を扱っているわけではありません。翻訳成果物については、今年からISO 21999として議論が始まります。