翻訳業界はそれほど規模が大きくないため業界史が必ずしも記録されておらず、口伝えに聞くしかないこともある。

柴田耕太郎氏の『翻訳家になろう!』(2012年、青弓社)を読んだら、翻訳業界の歴史について比較的詳しい記述があった。業界の人間にとっては貴重な資料だと思う。タイトルからこの内容は想像できなかった。

例えば「翻訳団体」という節(p.19)では、日本翻訳連盟(JTF)について以下のように書かれている。
 それでも徐々に経済回復への兆しが見え始めた1981年、日本翻訳連盟がひっそりと立ち上げられた。当初のメンバーは翻訳学校の日本翻訳学院(現・フェローアカデミー)と中小の翻訳会社を合わせて、十数社だった。<略>だが84年になると、少しずつ実績を積み上げていこうと考える企業と、実力をつけるにはまず社会的な認知が必要と考える企業が対立し、後者のメンバーは同会を脱退して新たに日本翻訳協会を設立した。

日本翻訳協会(JTA)の存在は知っていたが、もともと一つだったことは初耳だった。ほかにもさまざまな翻訳会社の歴史が紹介されていて、初めて知る事実も多かった。



また、昨今はISO 17100に関連して、翻訳が専攻できる大学院が話題に出ることがある。

実は日本でも2000年代半ばに「日本翻訳大学院大学」という専門職大学院が検討された(文科省サイト)。これが結局ダメになったことは聞いていたものの、その理由までは知らなかった。しかし同書には詳しい経緯が記されていた。

それによると、大学院の設置者である「栄光ゼミナール」から柴田氏が要請を受け、申請書を書いて文科省に提出したが、それに対して修正意見が出たらしい。柴田氏は反論して再提出しようと思ったものの、当の栄光ゼミナールが申請を取り下げてしまったということのようだ。同書にはその申請書の内容も掲載されている。

それから約10年経った現在、翻訳が専攻できる大学院への期待が高まっているので、この資料は貴重だと感じる。



ちなみにGoogleブックスから一部内容が読める(こちら)ので、興味のある方は試しに閲覧してから購入すればよいだろう。