Thierry Poibeau著『Machine Translation』(MIT Press、2017年)(英語版のみ)



2017年に出版された機械翻訳の解説書。新しいのでニューラル機械翻訳(NMT)まで扱っている。
技術面というより、歴史的な流れに主眼をおいて説明している。そのため技術者でなくてもあまりストレスを感じず読み進められる(ただし統計翻訳で若干の数式が登場)。
日本で既刊の機械翻訳本は技術者向けのものが多いので、その点では貴重だ。



同書第3章を参考に、簡単に機械翻訳の歴史をまとめるとこうなる。

・〜1940年代:
 研究者は自動翻訳について考えてはいたが、実現方法がなかった。

・1940〜1960年代半ば:
 コンピューターが登場し、動く機械翻訳システムが作られた。期待は大きかった。

・1965-66年:
 機械翻訳の実現に否定的な「ALPACレポート」がアメリカで出され、研究費が出なくなった。

・1966〜1980年代末:
 英米圏で研究は下火だった。ただし計算言語学で進歩があり、構文解析などが進んだ。
 一方、欧州や日本では研究は継続されていた。1980年代に日本の長尾真氏による「用例ベース」(Example-based)の機械翻訳が登場し、第8章はまるまるこの解説に当てられている。

・1990年代〜:
 統計とバイリンガル・コーパスを使ったアプローチが登場した。基礎になっているのは1980年代後半〜90年代初頭に行われたIBMでの研究(同書内でも詳しく解説している)。

・2010年代半ば〜:
 ディープラーニングに基づく新アプローチが登場(ニューラル機械翻訳のこと)。



同書でやや残念なのは、2017年に出版されたため、その直後に一気に普及したニューラル機械翻訳の解説が少ないという点だ。そのため、最新の機械翻訳だけを集中して知りたいという人にとっては物足りないかもしれない。
ただし歴史全体を知るには良い書籍であり、Kindle本で1,400円弱、洋書でも1,700円弱(2018年6月時点)なので、比較的買いやすい。