昨日翻訳業界の会合に参加したところ、翻訳業界を社会にどうアピールし、認知してもらうかという話題が出た。

僕は「原文を作る段階から最終読者が読む段階まで」が産業翻訳が扱う範囲だと考えている。
もちろん案件で違いはあるが、基本的なプロセスは以下を想定している。

  1. クライアント企業で原文を作成

  2. 翻訳会社で翻訳前作業(翻訳者割り当て、資料やツールの準備、MT適用など)

  3. 翻訳担当者が翻訳作業

  4. 翻訳会社で品質保証(最終読者を想定した確認も含む)


だから機械翻訳(MT)システムからの出力だけが翻訳ではないし、翻訳者の訳出作業だけが翻訳でもない。クライアントも読者も巻き込み(通常読者の参加は難しいが)、プロセス全体を経て成果物を出して初めて産業翻訳の仕事になると思う。
いまMTが注目されているので、MT出力だけを社会にアピールしてしまうと、このプロセス全体を認識してもらえない。

単に飲み物を出すだけであれば自動販売機でも可能だ。そのため「飲み物を出す」という点だけに注目してしまうと、「喫茶店なんて自動販売機で代替できるんでしょ?」と考える人はいるはずだ。でも実際は自動販売機が普及しても喫茶店はなくならない。自動販売機では100円で飲料が買えるのに、なぜその何倍も払って喫茶店に入る人がいるのか? それは喫茶店は単に飲み物を出しているだけでなく、別の価値も提供しているからだ(コーヒーを飲みながら読書できたり、人と待ち合わせできたり)。

同様に、もし「翻訳業界=訳文を出す」と社会に認識されてしまうと「翻訳業界なんてMTで代替できるんでしょ?」と思われてしまう。
やはり翻訳業界が社会にアピールすべきは単に「訳文を提供する」という点ではなく、「最終読者であるユーザーや消費者の満足を高め、クライアント企業の利益やイメージアップに貢献する」といった点だと考える。
(もし単に訳文を出して欲しいだけであれば、Google翻訳などを使ってもらえばよい)

僕自身は翻訳会社におけるMT活用について反対ではないのだが、MTは人間翻訳者を代替できるものではない。人間は同じ人間である最終読者に(たとえば)共感し、そういった視点で訳文を確認できる。あるいは分野専門家の視点で訳文内容をチェックできる。だから代替というより、プロセス全体の中で持ち場あるいは役割が違うと考えている。

そこで最初の問いに戻り、翻訳業界をどう社会にアピールするかを考えた場合、単に「訳文を出す」仕事をしているわけではなく、最終読者の満足度向上なども含めたプロセス全体を通じ、クライアント企業に貢献していると伝えるべきではないかと思う。