海外の翻訳業界において「linguist」という職業名はよく見かける。翻訳作業に加え、対訳用語集管理や品質保証など、複数言語に関わるさまざまな仕事をする人を指す。現代の翻訳サービスにおいて欠かせない仕事をしている。しかし日本において「リンギスト」という呼称はあまり聞かない。圧倒的に「翻訳者」が多い。

これを言うと関係者から嫌がられそうだが、翻訳業界はずっと「外国語を使う憧れの仕事・翻訳者」というイメージでビジネスをしてきた。翻訳者になるための講座や情報誌を用意し、厳しいトライアルに合格した人と「翻訳者」という肩書で取引契約をする。もちろん多くの職業にもそのような面はあるし、自分自身も乗っかっている部分はあるので、批判するわけではないが。

「翻訳者」には堅固なイメージがあるため、たとえば対訳用語管理のような仕事があったとしても、「自分は『翻訳者』だから翻訳しかしない」と避けたり、「『翻訳者』でお願いしている手前、用語管理は頼みづらい…」と翻訳会社が躊躇したりする。要するに翻訳者という肩書は、実際のビジネス需要と乖離してしまっている恐れがある。

では、対訳用語管理や品質保証のような仕事はどう扱われているかと言うと、「翻訳の周辺業務」という位置づけである。しかしこれも「翻訳が一番尊い」というイメージから生まれた位置づけに過ぎない。たとえば大規模な翻訳プロジェクトの場合、用語やスタイルの決め方ひとつで、翻訳成果物全体の品質が変わってくる。また、翻訳者の訳文の品質保証をするなら、その誤りを指摘できる程度に翻訳ができなければならない。つまりリンギストの仕事内容は、周辺業務どころか、翻訳サービスにおける中核なのである。



このようにリンギストは重要な役割を担っているのにもかかわらず、仕事の価値はあまり認められていないし、IT化された現代の翻訳サービスの実態とも乖離が生じている。また「リンギスト」という呼称も、日本の翻訳業界内ですら定着していない。

そこで、リンギストの仕事の内容やその重要性を発信するためにウェブサイトを作成した。今後、情報を充実させる予定である。

 https://linguist.work/

※ 上記ウェブサイト上にも書いてありますが、リンギストの仕事をしている人や興味がある人でゆるく意見交換をするために、Facebookのグループを作成しました。関心がある方はご参加ください。非公開グループなので、企業勤務の方もどうぞ。