rnishino

IT翻訳者Blog

翻訳、英語、ローカリゼーション、インターナショナリゼーションなどについて書いています。

翻訳/L10N

4 10月

翻訳品質を扱うISO 21999がキャンセル

ISOのウェブサイト(こちら)で公式発表されているが、10/3付で翻訳品質を扱うISO 21999はキャンセル(Deleted)になった。

規格の対象範囲(scope)をどこまで広げるかに関し、参加者間で意見が合わなかったのが原因である。リーダーらは「品質保証」まで扱うべきだと主張していたが、大半の国は「評価」に留めるべきだと考えていた。投票で「評価まで」と決まったのにもかかわらず、リーダーらが固執し、結局キャンセルになってしまった。
(確か2012〜2013年頃にも、ISO 17100を策定する過程で翻訳品質を扱う国際規格の話が持ち上がったものの、消えてしまったと聞く。)

ただし、翻訳品質評価自体の重要性は理解されているので、ISOで近々別のプロジェクトが立ち上がるかもしれない。



ISO以外でも、翻訳品質を扱う国際規格はASTMが現在制作している。

 ・ASTM WK46396: New Practice for Analytic Evaluation of Translation Quality
 ・ASTM WK54884: New Practice for Holistic Quality Evaluation System for Translation

また国際規格ではないが「MQM」が2015年に完成している。
MQMは欧州委員会の翻訳品質評価にも使われているようであるし、学術論文でもMQMを使って品質評価する例を見かける。
さらにMQMの制作者がASTMにも関わっており、今後MQMの方法が国際的に受け入れられる可能性は高い。ISOで別プロジェクトが立ち上がる場合も、MQMから大きな影響を受けると思われる。

なお、日本翻訳連盟(JTF)で昨年作った「JTF翻訳品質評価ガイドライン」もMQMをベースとし、これとの互換性を維持している。
そのため日本語が関わる翻訳で品質評価する場合は、JTFのガイドラインを参考にしておけば将来的に「ガラバゴス化」する危険性は小さいのではないかと思う。
27 8月

JTFスタイルガイドを更新

JTF日本語標準スタイルガイドが更新されました。

 JTF日本語標準スタイルガイド(翻訳用)
 http://www.jtf.jp/jp/style_guide/styleguide_top.html

styleguide30


新しい第3.0版の大きな修正点としては以下があります。

・クリエイティブ・コモンズ・ライセンスが「表示」(CC BY 4.0)に
これまでは「継承」(SA)が付いていたので、改変して再配布する際は同一ライセンス(つまり「継承」あり)とする必要がありました。
今後は適切にJTFのクレジットを記載するだけでよいということです。JTFに利用許諾の連絡をする必要もありません。
たとえば企業がJTFスタイルガイドをベースにして自社スタイルガイドを作り、取引先に配布するといったことが簡単にできます。

・Googleドキュメント上でも閲覧可
これまではPDFでのみ配布してきました。
Googleドキュメントの場合、DOCX、TXT、EPUBといった形式でもダウンロードできます。

細かい部分の修正は、スタイルガイド第3.0版の末尾にある改定履歴を参照してください。
19 7月

翻訳業界が社会にアピールすべき価値

昨日翻訳業界の会合に参加したところ、翻訳業界を社会にどうアピールし、認知してもらうかという話題が出た。

僕は「原文を作る段階から最終読者が読む段階まで」が産業翻訳が扱う範囲だと考えている。
もちろん案件で違いはあるが、基本的なプロセスは以下を想定している。

  1. クライアント企業で原文を作成

  2. 翻訳会社で翻訳前作業(翻訳者割り当て、資料やツールの準備、MT適用など)

  3. 翻訳担当者が翻訳作業

  4. 翻訳会社で品質保証(最終読者を想定した確認も含む)


だから機械翻訳(MT)システムからの出力だけが翻訳ではないし、翻訳者の訳出作業だけが翻訳でもない。クライアントも読者も巻き込み(通常読者の参加は難しいが)、プロセス全体を経て成果物を出して初めて産業翻訳の仕事になると思う。
いまMTが注目されているので、MT出力だけを社会にアピールしてしまうと、このプロセス全体を認識してもらえない。

単に飲み物を出すだけであれば自動販売機でも可能だ。そのため「飲み物を出す」という点だけに注目してしまうと、「喫茶店なんて自動販売機で代替できるんでしょ?」と考える人はいるはずだ。でも実際は自動販売機が普及しても喫茶店はなくならない。自動販売機では100円で飲料が買えるのに、なぜその何倍も払って喫茶店に入る人がいるのか? それは喫茶店は単に飲み物を出しているだけでなく、別の価値も提供しているからだ(コーヒーを飲みながら読書できたり、人と待ち合わせできたり)。

同様に、もし「翻訳業界=訳文を出す」と社会に認識されてしまうと「翻訳業界なんてMTで代替できるんでしょ?」と思われてしまう。
やはり翻訳業界が社会にアピールすべきは単に「訳文を提供する」という点ではなく、「最終読者であるユーザーや消費者の満足を高め、クライアント企業の利益やイメージアップに貢献する」といった点だと考える。
(もし単に訳文を出して欲しいだけであれば、Google翻訳などを使ってもらえばよい)

僕自身は翻訳会社におけるMT活用について反対ではないのだが、MTは人間翻訳者を代替できるものではない。人間は同じ人間である最終読者に(たとえば)共感し、そういった視点で訳文を確認できる。あるいは分野専門家の視点で訳文内容をチェックできる。だから代替というより、プロセス全体の中で持ち場あるいは役割が違うと考えている。

そこで最初の問いに戻り、翻訳業界をどう社会にアピールするかを考えた場合、単に「訳文を出す」仕事をしているわけではなく、最終読者の満足度向上なども含めたプロセス全体を通じ、クライアント企業に貢献していると伝えるべきではないかと思う。
1 7月

JTF翻訳祭2019に登壇します

翻訳業界における最大のイベント「翻訳祭」が2019年10月24日(木)にパシフィコ横浜で開催されます。

 https://www.jtf.jp/29thfestival/

7/1〜9/30までは早割期間で、参加費が通常の半額になります。
また同期間にJTFへの入会金がゼロになるキャンペーンをしています。会員になればさらに会員価格で翻訳祭に参加できます。
フリーランス翻訳者だけでなく、会社などに所属している方ももちろん入会できるので、この機会にぜひどうぞ。



私は2セッションに登壇する予定です。

・JTF翻訳品質評価ガイドラインの基本(11:30〜13:00 )
昨年11月に公開した同ガイドラインを解説します。
ガイドライン本体の説明に加え、実際に出席者と一緒にサンプルを評価してみます。
(今年2月に開催した翻訳品質セミナーとほぼ同内容となるので、すでにこちらに参加された方は別のセッションを見ることをお勧めします)

・UI翻訳は何が違うのか?(14:20〜15:50)
今まで「UI翻訳」はIT分野の翻訳者が担当してきました。ところが昨今はスマートフォンなどの普及によってさまざまなものが「アプリ化」されており、IT分野以外の翻訳者でもUIの翻訳をする話を聞くようになりました。たとえば医療関連アプリを医薬分野の翻訳者が訳すようなケースです。
そこで、UI翻訳はほかと比較して何が特殊なのか、UIをどう翻訳すればよいか、といった点について発表します。
共同で発表するYAMAGATA INTECH株式会社の古河さんは、企業におけるUI翻訳の実例などを紹介する予定です。



どのセッションも面白そうな内容ですが、特に私の専門との関連で言うと「アジャイル開発時代の翻訳プロセス」(9:30〜11:00)に興味を覚えました。
サイボウズ社でどのように翻訳(ローカリゼーション)のプロセスを回しているか、自社システムの紹介などと併せて解説してくれるようです。


以上です。
31 5月

ゲーム開発現場を描いたノンフィクション翻訳書『血と汗とピクセル』が6/22に発売

大ヒットゲームの開発現場の苦闘を描いたノンフィクション、『血と汗とピクセル:大ヒットゲーム開発者たちの激戦記』を翻訳しました。

血と汗とピクセル
https://globalization.co.jp/publication/blood-sweat-and-pixels/
(出版社サイト。ためし読み可)

全10章で、さまざまなゲームの開発ストーリーが語られています。たとえば…
  • 倒産間際の崖っぷちからクラウドソーシングで起死回生した会社

  • たった一人で5年近くかけて開発して数十億円を売り上げた青年

  • リリース時に大失敗するが改善を重ねて数千万本売れたゲーム

  • 大ヒット間違いなしとされながら開発中止で闇に消えた幻の大作


具体的なタイトルとしては、「ウィッチャー3」、「スターデューバレー」、「ディアブロ掘廖◆屮轡腑戰襯淵ぅ函廖◆屮▲鵐船磧璽謄奪4(海賊王と最後の秘宝)」、「デスティニー」が取り上げられています。

原書は全米ベストセラーのリストに入り、日本語も含めて9か国語に翻訳されています。

6/22に発売で、現在アマゾンなどで予約受付中です。
・アマゾン:https://www.amazon.co.jp/dp/4909688013/
・楽天ブックス:https://books.rakuten.co.jp/rb/15924135/



400ページとそこそこの分量がありますが、訳していてもかなり引き込まれました。
普段ゲームで遊んでいる方(とりわけ取り上げられているタイトルを知っている方)は楽しめるのではと思います。
前出の出版社サイトで、冒頭20数ページほどをためし読みできます。



ありがたいことに、すでにいくつかのメディアで取り上げていただきました。

電ファミニコゲーマー
https://news.denfaminicogamer.jp/news/190530k

 <上記の転載>
 ・Yahoo! JAPANニュース
 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190530-00081529-denfami-game
 ・BIGLOBEニュース
 https://news.biglobe.ne.jp/entertainment/0530/dfn_190530_3311142134.html
 ・ニコニコニュース
 https://news.nicovideo.jp/watch/nw5387797

4Gamer.net
https://www.4gamer.net/games/205/G020524/20190530085/

以上です。
★6/22発売の翻訳書★
血と汗とピクセル 『血と汗とピクセル』
筆者について
西野 竜太郎
(Ryutaro Nishino)

翻訳者。合同会社グローバリゼーションデザイン研究所・代表社員。日本翻訳連盟・理事。
プロフィールや連絡先などについてはこちらをご覧ください。
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