rnishino

IT翻訳者Blog

翻訳、英語、ローカリゼーション、インターナショナリゼーションなどについて書いています。

翻訳/L10N

27 8月

JTFスタイルガイドを更新

JTF日本語標準スタイルガイドが更新されました。

 JTF日本語標準スタイルガイド(翻訳用)
 http://www.jtf.jp/jp/style_guide/styleguide_top.html

styleguide30


新しい第3.0版の大きな修正点としては以下があります。

・クリエイティブ・コモンズ・ライセンスが「表示」(CC BY 4.0)に
これまでは「継承」(SA)が付いていたので、改変して再配布する際は同一ライセンス(つまり「継承」あり)とする必要がありました。
今後は適切にJTFのクレジットを記載するだけでよいということです。JTFに利用許諾の連絡をする必要もありません。
たとえば企業がJTFスタイルガイドをベースにして自社スタイルガイドを作り、取引先に配布するといったことが簡単にできます。

・Googleドキュメント上でも閲覧可
これまではPDFでのみ配布してきました。
Googleドキュメントの場合、DOCX、TXT、EPUBといった形式でもダウンロードできます。

細かい部分の修正は、スタイルガイド第3.0版の末尾にある改定履歴を参照してください。
19 7月

翻訳業界が社会にアピールすべき価値

昨日翻訳業界の会合に参加したところ、翻訳業界を社会にどうアピールし、認知してもらうかという話題が出た。

僕は「原文を作る段階から最終読者が読む段階まで」が産業翻訳が扱う範囲だと考えている。
もちろん案件で違いはあるが、基本的なプロセスは以下を想定している。

  1. クライアント企業で原文を作成

  2. 翻訳会社で翻訳前作業(翻訳者割り当て、資料やツールの準備、MT適用など)

  3. 翻訳担当者が翻訳作業

  4. 翻訳会社で品質保証(最終読者を想定した確認も含む)


だから機械翻訳(MT)システムからの出力だけが翻訳ではないし、翻訳者の訳出作業だけが翻訳でもない。クライアントも読者も巻き込み(通常読者の参加は難しいが)、プロセス全体を経て成果物を出して初めて産業翻訳の仕事になると思う。
いまMTが注目されているので、MT出力だけを社会にアピールしてしまうと、このプロセス全体を認識してもらえない。

単に飲み物を出すだけであれば自動販売機でも可能だ。そのため「飲み物を出す」という点だけに注目してしまうと、「喫茶店なんて自動販売機で代替できるんでしょ?」と考える人はいるはずだ。でも実際は自動販売機が普及しても喫茶店はなくならない。自動販売機では100円で飲料が買えるのに、なぜその何倍も払って喫茶店に入る人がいるのか? それは喫茶店は単に飲み物を出しているだけでなく、別の価値も提供しているからだ(コーヒーを飲みながら読書できたり、人と待ち合わせできたり)。

同様に、もし「翻訳業界=訳文を出す」と社会に認識されてしまうと「翻訳業界なんてMTで代替できるんでしょ?」と思われてしまう。
やはり翻訳業界が社会にアピールすべきは単に「訳文を提供する」という点ではなく、「最終読者であるユーザーや消費者の満足を高め、クライアント企業の利益やイメージアップに貢献する」といった点だと考える。
(もし単に訳文を出して欲しいだけであれば、Google翻訳などを使ってもらえばよい)

僕自身は翻訳会社におけるMT活用について反対ではないのだが、MTは人間翻訳者を代替できるものではない。人間は同じ人間である最終読者に(たとえば)共感し、そういった視点で訳文を確認できる。あるいは分野専門家の視点で訳文内容をチェックできる。だから代替というより、プロセス全体の中で持ち場あるいは役割が違うと考えている。

そこで最初の問いに戻り、翻訳業界をどう社会にアピールするかを考えた場合、単に「訳文を出す」仕事をしているわけではなく、最終読者の満足度向上なども含めたプロセス全体を通じ、クライアント企業に貢献していると伝えるべきではないかと思う。
1 7月

JTF翻訳祭2019に登壇します

翻訳業界における最大のイベント「翻訳祭」が2019年10月24日(木)にパシフィコ横浜で開催されます。

 https://www.jtf.jp/29thfestival/

7/1〜9/30までは早割期間で、参加費が通常の半額になります。
また同期間にJTFへの入会金がゼロになるキャンペーンをしています。会員になればさらに会員価格で翻訳祭に参加できます。
フリーランス翻訳者だけでなく、会社などに所属している方ももちろん入会できるので、この機会にぜひどうぞ。



私は2セッションに登壇する予定です。

・JTF翻訳品質評価ガイドラインの基本(11:30〜13:00 )
昨年11月に公開した同ガイドラインを解説します。
ガイドライン本体の説明に加え、実際に出席者と一緒にサンプルを評価してみます。
(今年2月に開催した翻訳品質セミナーとほぼ同内容となるので、すでにこちらに参加された方は別のセッションを見ることをお勧めします)

・UI翻訳は何が違うのか?(14:20〜15:50)
今まで「UI翻訳」はIT分野の翻訳者が担当してきました。ところが昨今はスマートフォンなどの普及によってさまざまなものが「アプリ化」されており、IT分野以外の翻訳者でもUIの翻訳をする話を聞くようになりました。たとえば医療関連アプリを医薬分野の翻訳者が訳すようなケースです。
そこで、UI翻訳はほかと比較して何が特殊なのか、UIをどう翻訳すればよいか、といった点について発表します。
共同で発表するYAMAGATA INTECH株式会社の古河さんは、企業におけるUI翻訳の実例などを紹介する予定です。



どのセッションも面白そうな内容ですが、特に私の専門との関連で言うと「アジャイル開発時代の翻訳プロセス」(9:30〜11:00)に興味を覚えました。
サイボウズ社でどのように翻訳(ローカリゼーション)のプロセスを回しているか、自社システムの紹介などと併せて解説してくれるようです。


以上です。
31 5月

ゲーム開発現場を描いたノンフィクション翻訳書『血と汗とピクセル』が6/22に発売

大ヒットゲームの開発現場の苦闘を描いたノンフィクション、『血と汗とピクセル:大ヒットゲーム開発者たちの激戦記』を翻訳しました。

血と汗とピクセル
https://globalization.co.jp/publication/blood-sweat-and-pixels/
(出版社サイト。ためし読み可)

全10章で、さまざまなゲームの開発ストーリーが語られています。たとえば…
  • 倒産間際の崖っぷちからクラウドソーシングで起死回生した会社

  • たった一人で5年近くかけて開発して数十億円を売り上げた青年

  • リリース時に大失敗するが改善を重ねて数千万本売れたゲーム

  • 大ヒット間違いなしとされながら開発中止で闇に消えた幻の大作


具体的なタイトルとしては、「ウィッチャー3」、「スターデューバレー」、「ディアブロ掘廖◆屮轡腑戰襯淵ぅ函廖◆屮▲鵐船磧璽謄奪4(海賊王と最後の秘宝)」、「デスティニー」が取り上げられています。

原書は全米ベストセラーのリストに入り、日本語も含めて9か国語に翻訳されています。

6/22に発売で、現在アマゾンなどで予約受付中です。
・アマゾン:https://www.amazon.co.jp/dp/4909688013/
・楽天ブックス:https://books.rakuten.co.jp/rb/15924135/



400ページとそこそこの分量がありますが、訳していてもかなり引き込まれました。
普段ゲームで遊んでいる方(とりわけ取り上げられているタイトルを知っている方)は楽しめるのではと思います。
前出の出版社サイトで、冒頭20数ページほどをためし読みできます。



ありがたいことに、すでにいくつかのメディアで取り上げていただきました。

電ファミニコゲーマー
https://news.denfaminicogamer.jp/news/190530k

 <上記の転載>
 ・Yahoo! JAPANニュース
 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190530-00081529-denfami-game
 ・BIGLOBEニュース
 https://news.biglobe.ne.jp/entertainment/0530/dfn_190530_3311142134.html
 ・ニコニコニュース
 https://news.nicovideo.jp/watch/nw5387797

4Gamer.net
https://www.4gamer.net/games/205/G020524/20190530085/

以上です。
3 5月

ポジティブなグローバリゼーション

「グローバリゼーション」という言葉は、経済や社会の文脈でネガティブな意味合いを持つことがある。たとえばコストの安い海外に工場が移転して国内産業が衰退し、その結果として貧富の格差が拡大するといった問題が語られる場面だ。(参考:コトバンクにおける諸定義

先日ジャーナリストの佐々木俊尚氏のツイートを見ていたらグローバリゼーションに関する話題が出てきた。

ソフトウェア分野におけるグローバリゼーションの定義は、これに近い。そしてネガティブな意味合いはなく、むしろポジティブな意味合いの方が強い。

ソフトウェアのグローバリゼーションとは、さまざまな言語や地域でソフトウェアを使えるようにすることである。その際、以下の2種類の作業が行われる。

A. インターナショナリゼーション(Internationalization、I18N、国際化)
特定の言語、地域、文化に依存しないよう、ソフトウェアを汎用化する作業である。主にプログラマーが関わる。
たとえば、あらゆる文字を扱えるようUnicodeを使ったり、翻訳され得るテキストをプログラム本体から切り離しておいたり、性や数で名詞の形が変わる言語に翻訳されても柔軟に対応できるプログラムを書いておいたりする。

B. ローカリゼーション(Localization、L10N、地域化)
特定の言語、地域、文化に合う形に特殊化する作業である。主に翻訳者が関わる。
言葉の翻訳(例:英語→日本語)が大部分であるが、ターゲットの文化に合うよう画像や映像を差し替えたり、機能(例:税金計算)を修正したりすることもある。

このAとBの関係を図示すると以下のようになる。インターナショナリゼーション(I18N)でソフトウェアの「土台」を作り、その上にローカリゼーション(L10N)で各国語の「家」を建てるようなイメージだ。そして、この2者を合わせて「グローバリゼーション」(G11N)と呼ぶ。

Intro-G11N_fig2-1
<『ソフトウェア・グローバリゼーション入門』(達人出版会、2017年)の図2.1を転載>

このうち、土台(I18N)が佐々木氏の言う「標準的なプラットフォーム」、家(L10N)が「それぞれの多様性」に相当している。



この2者の関係は、静的ではない。
各言語や文化(家)に存在する多様性のうち、土台(=プラットフォーム)に取り込めそうなものは取り込もうという努力が継続的になされている。
古くは、Unicodeのような文字コードである。おかげで日本人が使う漢字を含め、さまざまな文字が扱えるようになり、ソフトウェア上における言語文化の多様化に貢献している。あるいは、アラビア語など右から左に読む言語(RTLとも呼ぶ)にも対応できる仕組みの考案も、多様性をプラットフォーム側に取り込む努力の例だ。

さらに例を挙げると、ここ十数年ほどの間にソフトウェアで実装されつつあるのは、性や数で名詞の形が変わる言語への対応だ。
たとえば「カートに◯冊入っています」というメッセージの場合、日本語では数がいくつでもメッセージを変える必要はない。名詞に単数形も複数形もないからだ。しかし英語では単数なら「You have 1 book in your cart.」だし、複数なら「You have 5 books in your cart.」などと名詞(book/books)の形が変わる。
かつては「book(s)」のような表記も見られた。しかしきれいなやり方ではないし、英語なら単数と複数の2カテゴリーだけだが、言語によってはさらに複雑な複数形のカテゴリーを持つ言語もある(ロシア語で4カテゴリー、アラビア語で6カテゴリーとされる)。加えて、英語には名詞に性はないが、フランス語やスペイン語には男性と女性、ドイツ語にはさらに中性もある。
そこで、たとえば英語の複数形であれば、数が「1」か「それ以外」(複数やゼロ)かによって表示テキストを切り換える仕組みが作られた。具体的にはプラグラム上で以下のように書かれる(ICUの書式)。

{冊数, plural,
one {You have 1 book in your cart.}
other {You have # books in your cart.}
}

こういった仕組みはここ十数年くらいの間に広まったが、積極的に貢献している開発者には東欧の人が多い印象だ。というのも東欧では複数形が複雑な言語が用いられており、そういった言語できちんと翻訳テキストを表示させたいという動機があるのだろう。
これも多様性をプラットフォーム側に取り込む努力である。

実は「令和」も、日本文化という多様性をプラットフォームに取り込む最新の実例であった。
Unicodeには「漾廚筺岫錙廚覆標宜罎旅膸が存在する。当然、新元号の合字も欲しい。そこで改元スケジュールが発表されると、Unicodeコンソーシアムでは新元号のコードポイントを確保するなど、あらかじめ準備をした(ブログ記事)。そして新元号発表後、速やかに実装作業に入った(ブログ記事)。



このように、ソフトウェアにおける「グローバリゼーション」には、さまざまな言語や文化の多様性を、土台であるプラットフォームに取り込んでいく動的な側面もある。
もちろん日本語のように話者の多い言語に比べると、少数話者の言語は十分に取り込まれていないかもしれない。しかし東欧の開発者が「複数形」の仕組みを積極的に開発しているように、徐々にではあるが前進しつつある。そしていったんプラットフォームに取り込まれれば退歩も考えにくい。

そのためソフトウェアのグローバリゼーションは、ネガティブというより、むしろ前向きでポジティブな印象の方が強いのである。
★6/22発売の翻訳書★
血と汗とピクセル 『血と汗とピクセル』
筆者について
西野 竜太郎
(Ryutaro Nishino)

翻訳者。合同会社グローバリゼーションデザイン研究所・代表社員。日本翻訳連盟・理事。
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著書
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ソフトウェアグローバリゼーション入門
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『ソフトウェアグローバリゼーション入門』

達人出版会刊
『ソフトウェア・グローバリゼーション入門』


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