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IT翻訳者Blog

翻訳、英語、ローカリゼーション、インターナショナリゼーションなどについて書いています。

翻訳/L10N

25 5月

アメリカの翻訳通訳企業の統計

Slatorの記事で、アメリカの翻訳通訳関連企業の統計データが紹介されている。

 US Language Industry Booms, Doubles Headcount Within 7 Years
 https://slator.com/industry-news/us-language-industry-booms-doubles-headcount-within-7-years/

従業者数、企業数、平均賃金などが分かりやすいグラフになっているので、読みやすい。翻訳業界の人であれば興味を抱きそうな情報ばかりだ。

なかでも特に印象深かったのは、規模(従業員数)である。グラフを引用する。


(引用元: https://slator.com/industry-news/us-language-industry-booms-doubles-headcount-within-7-years/ 2017-05-25時点)

2,494社ある翻訳通訳関連企業のうち、1,943社が従業員が1〜4人らしい。実に8割近い。
個人が法人化しているようなケースが多いのだろう(私の会社も同じだが……)。
もし翻訳業界で「平均」を調べた場合、こういった小規模企業の実体が強く影響しそうだ。

ヨーロッパの翻訳業界調査によると、企業規模が小さいほど機械翻訳などテクノロジーの導入率が低いらしい。
同じ翻訳会社と言っても、小規模企業と大企業とでは、やっている仕事の内容に違いがある。
「平均的な翻訳会社像」というのは想定しない方がよいのかもしれない。
25 5月

シンガポールの国家翻訳委員会

シンガポールでは2014年に国家翻訳委員会(National Translation Committee)という組織が立ち上がったらしい。


リンク: https://www.mci.gov.sg/portfolios/public-comms/what-we-do

まず政府内で翻訳のノウハウを蓄積し、それを民間に移転するようなことを計画しているようだ。
また、言語としては中国語、マレー語、タミル語の専門家が参加して改善を図ろうとしている。シンガポールは多民族国家なので、そういった点を考慮しなければならないのだろう。

先日この委員会の人と話す機会があったのだが、シンガポールの翻訳ビジネスは個人や中小企業が多く、日本のように大きな翻訳会社はないという話だった。だから日本の翻訳業界の現状は興味深そうに聞いていた。

翻訳業界の状況は国によって違うだろうが、多言語が関わるという翻訳サービスの性質上、今後は国際的なルールや基準が広がるかもしれない。例えば翻訳品質評価では、DQFとMQMが国際標準に推されているという噂も聞く。
日本の翻訳業界は海外の業界トレンドから比較的隔絶されているような印象がある。これが良いとか悪いとかは一概には言えないが、少なくとも情報収集は積極的にしておきたい。
12 5月

JTFジャーナル#289に記事掲載。翻訳者資格登録制度の特集も

JTFジャーナルの289号が出ています。JTF会員でなくてもダウンロード可能ですが、無料の会員登録が必要です(本記事執筆時点)。

JTFジャーナル
http://journal.jtf.jp/

私の「翻訳品質のランチボックス」連載第6回は、p.22からの「MQMの評価手法」です。
ヨーロッパで作られたMQMの方法について解説しています。

また、「翻訳者資格登録制度」の特集が組まれています。
本ブログでも何回か取り上げていますが、主催者である日本規格協会からの説明なので、興味のある方はぜひ無料会員登録してお読みください。



以上です。
9 5月

ヨーロッパ翻訳業界調査2017年版を読む

2017年版のヨーロッパ翻訳業界調査が先月公開されたようだ(ちなみに以前の記事で2016年版を紹介している)。
ヨーロッパは翻訳市場としては世界最大で、ヨーロッパにおけるトレンドや取り組みは、日本でも大いに参考になる。

2017 Language Industry Survey
http://ec.europa.eu/info/sites/info/files/2017_language_industry_survey_report_en.pdf(PDFファイル)

GALA、EUATC、eliaなどの業界団体に加え、今回からFITも協力しているため、個人翻訳者からの回答も多かったようだ。
全文は上記PDFで確認していただくとして、本ブログ記事では個人的に気になった項目をいくつか見てみたい。

◆個人翻訳者の売上

2万5千ユーロ(約300万円)未満が最も多い。いわゆる先進国ばかりではないので、この層が多いのではという解説があった。


◆翻訳分野
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翻訳会社も個人も法律(Legal)の割合が高いが、個人(Indep. Prof.)は相対的に多い。さらに行政(Government)も個人が相対的に多いようだ。一方で製造業(Manufacturing)や自動車(Automotive)は会社が多いので、この辺りは事業規模の違いかもしれない。


◆所属する業界団体(企業)

やはり企業はEUATC、Elia、GALAあたりが多いようだ。
重複の扱いは不明。「Business」は一般的なビジネス団体らしい(例:東京商工会議所)。


◆所属する業界団体(個人)

個人は入っているとすればFITが多いが、そもそも入っていない人も多い。


◆価格

このグラフは若干読みにくいが、翻訳価格の実際(Real)と予想(Expected)が翻訳会社(LSC)と個人(Ind. Prof.)別に書かれているようだ。
実際を見てみると、個人は毎年数パーセント程度低下しているが、会社は毎年10〜25パーセントも落ちている。
単価が上がらないことを嘆く個人翻訳者の話をよく聞くが、上流(翻訳会社)ではもっと厳しい。


◆増やす外注形態

グラフに詳しい説明がないのだが、翻訳会社がこれから増やしたい外注形態だと思われる。
言語タスクのアウトソーシング(一番左)が最も多いが、徐々に減る傾向にある。社内翻訳を増やそうということなのだろうか。
また、クラウドソーシングは2015年に頭打ちになっている。クラウドソーシングでは必要な品質を確保できないと判断したのかもしれない。


◆機械翻訳(MT)を使う翻訳会社

翻訳会社における機械翻訳の利用は、規模で違うようだ。


◆CATやTMSを使わない企業


こちらも企業規模で違うようだ。


◆MT、CAT、TMS以外に使っているテクノロジー

品質管理(例:タグ破損や数字転記ミスを検出)が多く、その次が音声入力のようだ。個人翻訳者がキーボード入力の代替として使うのだろう。用語(Terminology)はほとんど使われていない。


◆EMT(ヨーロッパ翻訳修士号)の認知

「知らない」が過半数、「知っていて採用時に考慮する」はたった13パーセントだ。
ISO 17100による翻訳者要件の1つめは「翻訳の学位」で、このEMTあたりが想定されていると思われる。
しかし、これを採用に考慮する翻訳会社は少ない。大学院で1〜2年程度学んだだけでは実務レベルにはならないし、現場に入ってから学ぶことが多いということだろう。
以前のブログ記事にも書いたが、フリーの実務翻訳者を目指すなら「社会人経験を積みながら翻訳学校 → 翻訳会社やクライアント企業 → 独立」というルートが最も安全、安価、確実だと思われる。


◆就職時に求められる能力やスキル(言語担当者)

翻訳者など言語担当者の場合、母語能力、外国語能力、翻訳能力の3つがCritical(青い部分)とされている。CATスキルなどもImportant(赤い部分)とされているが、これは必要になれば比較的短期間で習得できる。まずはCriticalの3つに注力すべきだろう。


◆翻訳会社の課題とトレンド
challenges-and-trends-for-the-company
(クリックで拡大)
2017年で多いものを4つ挙げると、
・納期の圧力(Time pressure)
・価格の圧力(Price pressure)
・品質要求(Quality requirements)
・差別化(How to differentiate oneself)
のようだ。一般的な企業とそれほど変わらないかもしれない。


◆業界のトレンドと関心事

やはり機械翻訳(MT)のようだ。


実は「CAT USER RIGHTS AND OWNERSHIP」という項目もあった。翻訳資産(例:翻訳メモリー)の権利は誰が持つかという調査のようだ。非常に興味深かったのだが、表の読み方がよく分からなかったので、ここで紹介していない。
2 5月

カルチュラリゼーションの悩ましさ

日本のゲームをアメリカ向けにローカリゼーションする際、ゲーム内の看板に「KKK」という文字が入っていたため、それを変更するかしないかで騒動になっている。
「KKK」はアメリカで「クー・クラックス・クラン」を想起させるため、不愉快に感じる人がいる。ビジネス上のリスクを感じ取った会社はそれを変更したものの、ローカリゼーション担当者は元のまま(日本語版のまま)に残すべきだと主張してクレジットから名前を外してもらったようだ。

記事:
『AKIBA’S BEAT』の北米版、「KKK」と書かれた看板が修正へ。ローカライズ担当者は不服を表明
Why This Japanese Game Is Sparking So Much Controversy (And What It Has To Do With The KKK)

実はゲーム・ローカリゼーションではこの種の問題がたまに発生する。過去には大きな批判も起こっている。
有名なところでは、2003年にマイクロソフトXboxの「Kakuto Chojin」でイスラム教のコーランが不適切に使われているとサウジアラビア政府が抗議した。そのためリコールに追い込まれた(記事)。
ほかにも、2006年にソニーPlayStation 3の「Resistance: Fall of Man」ではイギリスの教会を舞台に銃撃戦をする場面があった。イングランド国教会はこれに怒ってソニーに抗議している(Wikipedia記事)。


 <「Resistance: Fall of Man」の銃撃戦。引用元

製品やサービスを提供先地域に合わせることがローカリゼーション(localization:L10N)である。中でも特に宗教や歴史といった文化面について合わせることは「カルチュラリゼーション」(culturalization)と呼ばれる。ゲーム・ローカリゼーションではよく目にする言葉だ。

冒頭の例では、結局「KKK」を「ACQ」に変更したらしい。ビジネス的に見ると妥当な選択だと思われる。KKKはパロディとして入っていたようだが、そのパロディから得られる楽しさというメリットと、カルチュラリゼーション失敗によるリスクとを比較すると、ビジネス的にはやはり後者を避けたいだろう。

地域に合わせる形にローカリゼーション(翻訳)することを翻訳学で「受容化」(domestication)と呼ぶが、ただしこれが常に妥当だとは限らない。とりわけゲームの場合、ソース文化が感じられるよう、翻訳は直訳っぽくして欲しいという要望もある(記事)。これは同じく翻訳学で「異質化」(foreignization)と呼ばれる。2つの方向が存在するのだ。

冒頭のローカリゼーション担当者は、日本版オリジナルを尊重し、その文化を伝えたいという気持ちがあったのかもしれない。翻訳ビジネスには悩みが多い。
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筆者について
西野 竜太郎
(Ryutaro Nishino)

翻訳者/コンサルタント。合同会社グローバリゼーションデザイン研究所代表社員。ソフトウェアのインターナショナリゼーションやローカリゼーションが専門。

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