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IT翻訳者Blog

翻訳、英語、ローカリゼーション、インターナショナリゼーションなどについて書いています。

翻訳/L10N

29 4月

翻訳者登録制度はフリーランスにとって良い選択肢だ

先日、知り合いから「西野さんは『翻訳者登録制度』に批判的なんですか」と聞かれて驚いた。この制度はフリーランス翻訳者にとってメリットがあり、良いものだと考えている。良いと考えるからこそ慎重に吟味すべきで、それが批判的という印象を与えたのかもしれない。

そもそもなぜこのような制度ができる流れになったのか、ISO 17100との関係を中心に見てみる。

  • 2015年に発行されたISO 17100は翻訳サービスの規格を定めている

  • 翻訳会社は、ISO 17100に基づく翻訳サービス案件(以下、便宜的に「ISO案件」)をハイエンドに位置づけている。つまりこれによって差別化を図って収益を向上させたい(→ 結果的には翻訳者にも恩恵がある)

  • ISO案件では、ISO 17100に定められた要件を満たした翻訳者(以下、便宜的に「ISO翻訳者」)を使う必要がある

  • 翻訳者は、自分がISO翻訳者であることを、各翻訳会社に確認してもらってもよい

  • しかし取引のある複数の翻訳会社に資料(卒業証明書など)を送るには手間がかかる

  • もしどこか1か所にISO翻訳者であることを登録できる場所があれば、各翻訳会社はここを参照すればよいだけとなるので、便利だ


このような流れから、ISO翻訳者であることの登録を一元化できる「翻訳者登録制度」ができたと考えられる。

以下にJSAのウェブサイトから関係図を引用する。特に注意したいのは、翻訳者が登録するのは、各翻訳会社ではなく日本規格協会という点だ。


(引用元:http://www.jsa.or.jp/guide/rcct.html<参照日:2017-04-29>)

同制度はISO 17100の流れからできており、基本的にISO案件を扱う場合にのみ関係する。ISO案件ではない通常翻訳案件では、同制度の利用は必須ではない。

ただし、ISO案件に関わらない場合でも、翻訳者が同制度で登録しておくメリットはある。
以前も紹介した川村インターナショナルのブログ記事によると「有資格翻訳者の情報は日本規格協会のWebサイト上に公開」されるらしい。つまり第三者に翻訳者としての実績を証明してもらえるのだ。だからこの登録をトライアルに代える翻訳会社が出てくる可能性もあると同記事では言っている。
最上位のAPTは2年で25,000円という費用がかかるが、日本規格協会のウェブサイト上に名前が載れば、フリーランス翻訳者が下手なホームページを作って宣伝するよりよほど効果があるのではないか。ホームページを運用するサーバー代だって毎月かかる(月1,000円なら2年で24,000円)。

まとめると、翻訳者登録制度はISO案件に関わる場合はもちろんのこと、フリーランス翻訳者が実績を第三者に証明してもらえる点でもメリットがある。これはISO案件ではない通常翻訳案件でも効果を発揮する可能性がある。
しかも同制度を使うか使わないかは、まったくの自由だ。制度を使わなければ社会的に「翻訳者」を名乗れなくなるわけではないし、制度の利用が法律で義務とされているわけではない。

こういった理由から、翻訳者登録制度はフリーランス翻訳者にとって良い選択肢になると考える。



次回の「JTFジャーナル」(#289)では同制度の特集が組まれる。また5/31には東京で説明会がある(チラシPDF)。
27 4月

TAUS Forum Tokyo 2017で発表

先日、TAUS Executive Forum Tokyo 2017で発表をしました。

私の発表は、Trados Studioにインストールしたプラグインで訳文の品質評価をし、その結果をTAUSのQuality Dashboard上で確認するという流れの説明とデモでした。
普段使っている作業環境で、編集作業などもしながら品質評価をできるので、便利だと思います。



DQFプラグインはTrados Studioだけでなく、XTMなどにも現在実装されています。プラグインの一覧はこちら:
https://www.taus.net/evaluate/plugins



今回のForumでは、音声翻訳やニューラル機械翻訳(NMT)といったテクノロジーがよく取り上げられていました。

しかし何度も出てきたのは「翻訳品質」の話題です。
機械翻訳が発展した場合、それがどの程度できるのかを測定する必要があります。出てきた数字自体を計算したり比較したりするのは客観的にできますが、「何を評価項目に入れるか」、「各評価項目は重み付けするのか」、「重み付けは分野で別にするのか一律にするのか」、「どの程度できれば何点を付けるのが妥当か」といった基本的な部分はどうしても主観を排除できません。人間が関わる部分です。

現在、機械翻訳の人手評価では「流暢さ」(Fluency)と「正確さ」(AccuracyまたはAdequacy)が2つの大きな指標になっています。
今回のForumでも指摘が出ていたのですが、例えばGoogleのNMTでは「用語」の統一などは図れないようです。商品レベルの訳文にするには「用語」や「スタイル」といった面も大事です。TAUSのDQF-MQMエラー分類にはどちらも入っています。しかしそういった指標は現在、機械翻訳開発者の間では重要だと認識されていないようです。
Googleの方に直接聞いてみたところ、今のところ流暢さと正確さを1つにまとめたような指標を使っているが、それも検討しなきゃならない……というようなことを言っていました。

結局「何が良ければ良い翻訳と言えるのか?」という問いは、テクノロジーが発展しても、答えが分からないまま残っているのが現状です。
前述のDQF-MQMは「エラー評価」ですが、「エラーがなければ良い翻訳である」とは言えません。エラー評価は翻訳のある側面しか見ていないわけです。もちろん「クライアントが良いと言えば良い翻訳だ」というのも違うでしょう。

JTFでは今年度から「翻訳品質委員会」を始めた(「標準スタイルガイド検討委員会」から改称)ので、テクノロジーが発展しても残る人間くさい部分に取り組んで行こうと考えています。
23 4月

ローカリゼーション翻訳の特徴

翻訳学の概説書としてよく読まれている『Exploring Translation Theories』によると、ローカリゼーション(L10N)翻訳の特徴は「インターナショナリゼーション」(I18N)が存在するという点にあるとされる。

この場合のI18Nとは、原文テキストをいったん多言語化しやすい形にする、といった意味である。具体的には「制限言語」のようなものを使う。
通常の翻訳では「起点言語 → 目標言語」という1段階のプロセスを経る。しかしI18Nが入った場合、

 起点言語 → I18N → 目標言語A、目標言語B、目標言語C…

という2段階のプロセスを経るというということだ。
しかし、実際には制限言語を使ってL10Nしているプロジェクトはほとんどない。また一般的にI18Nはソフトウェア開発の工程を指すことが多い。翻訳学の理論としては面白いが、現実から乖離していると言わざるを得ない。



ローカリゼーション翻訳の最大の特徴で、かつ難しさがあるのは「デジタル・メディア上のテキストを扱う」点だと思う。デジタル・メディアは紙メディアと違い、執筆や翻訳の時点でテキストが固まっている必要はない(注1)。
例えば、ソフトウェアUI上で「カートにx個の商品が入っています」という日本語原文があるとする。これを英語にする場合、xが1であるのか、それ以外であるのかで別の訳文を用意する必要がある。前者なら「1 item」だし、後者なら「2 items」などとsが付くはずだ。つまりxに入る数字によってテキストは別のものになるのだ。

上記はシンプルな1文の例だが、次のファイルを見てみよう。これは私が公開しているAndroidアプリのUI原文テキストである。



原文テキストは「Default Value」列にあり、これを例えば日本語に翻訳する。
これらのテキストは、ソフトウェア画面に表示される順に並んでいるわけではない。別々の画面のテキストが混じっている。さらに、書籍のように上から下、左から右という登場順に並んでいるわけでもない。
ソフトウェアはこれらのテキストを組み合わせて画面を構成するため、どこにどのテキストが表示されるかは、実際にソフトウェア画面(文脈)を見ないと分からない。
バラバラのテキストを組み合わせ、動的に全体を生成するのはデジタル・メディアの特徴だろう。紙メディアにそれはない。

このように、ローカリゼーション翻訳の最大の特徴と難しさがあるのは、デジタル・メディア上のテキストを扱う点にあると考える。テキストは固まっておらず、動的に生成される。
そのため、ローカリゼーションに関わる翻訳者は、テキストが表示されるメディア(すなわちソフトウェア)の特徴を十分に知っておく必要があるだろう。またソフトウェアUIの文脈を想像する力も求められる。

※注1:ここで「メディア」とは、マスメディアのことではない(例えばデジタル・メディアはYahooニュース、紙メディアは朝日新聞といった話ではない)。情報を保持するもののことを指す。
21 4月

翻訳者登録制度でメリットがあるのは誰か

翻訳者登録制度」は日本規格協会(JSA)によるウェブ上の情報が少ないため、さまざまな憶測を呼んでフリーランス翻訳者の不安を解消できていない。

ISO 17100と翻訳者登録制度との関係を簡単にまとめておく:
・翻訳会社がISO 17100に準拠する翻訳サービス(仮にISO案件と呼ぶ)を提供する場合、資格と力量の要件を満たした翻訳者(仮にISO翻訳者と呼ぶ)を使う必要がある。
・ISO翻訳者であるには、資格と力量を、(A)各翻訳会社に個別に確認してもらうか、(B)翻訳者登録制度を利用してJSAに確認してもらう必要がある。
・Bの場合は情報が一元化され、複数の翻訳会社に毎回確認してもらう必要がなくなる(例:毎回大学の卒業証明書を取得する必要がない)

つまり、翻訳者登録制度がどうしても必要なのは、ISO案件に関わり、かつ、翻訳会社個別の確認を避けたい翻訳者だけである。
昨日のブログ記事にも書いたが、翻訳者登録制度で登録しないと社会的に翻訳者と認めてもらえないという話ではない。あくまでISO案件に関わる場合に問題になるだけだ。そのISO案件がどの程度になるかも現時点では予想できない。



この制度について、「翻訳会社にメリットがあるのだから翻訳会社が費用負担すべきだ」という意見がある。確かに翻訳会社にメリットがあるため、その意見は理解できる。資格や力量の確認はJSAに問い合わせればよいだけなので、翻訳者から送られてきた資格や力量の資料にいちいち目を通すような手間が省けるだろう。

ただ、逆に翻訳会社には大きなデメリットがある。「優秀な翻訳者を囲い込んでおけない」ということだ。

例として、ある翻訳会社(A社)がフリーランス翻訳者(Bさん)の資格と力量を個別に確認し、ISO案件の取引を始めたとしよう。しかしBさんはA社の料金の低さや仕事量の少なさに不満を持つようになり、A社のライバルである翻訳会社(C社)と取引を始めたいと考えた。
BさんがISO翻訳者であるのは、A社による確認のみであるため、A社を離れてほかの翻訳会社とすぐ取引を始められない。確認には(証明書を用意するなど)手間がかかる。さらに、翻訳実績もA社におけるものである。例えばBさんが「C社と取引したいので実績証明を出してください」とA社には言いにくいだろう。
つまり、翻訳会社がISO翻訳者を個別に確認した場合、ロックインや退出障壁のような効果を発揮するため、優秀な翻訳者を囲い込んでおける。翻訳者が外部の翻訳者登録制度を利用していた場合、これが難しくなろうだろう。

この翻訳会社のデメリットは、逆に翻訳者のメリットである。
翻訳者は翻訳会社に囲い込まれないため、価格などの交渉力が増すだろう。「私は翻訳者登録制度を使っているため、すぐほかの翻訳会社と取引できますよ」とほのめかせる。ある意味、翻訳会社と戦うための武器を手に入れられるのだ。

まとめると、同制度では、翻訳会社には手間(例:資料に目を通す)が省けるというメリットは確かにある。しかし翻訳者を囲い込んでおけないという大きなデメリットがある。逆に、翻訳者は囲い込みを回避して交渉力を高められるというメリットがある。
だから翻訳者登録制度は、翻訳会社ではなく翻訳者により大きなメリットがあると言えるだろう。
(一番儲かるのはJSAかもしれないが…)

そのため、翻訳会社が制度の費用負担をする大きな根拠はない。最も大きなメリットを享受できるのは翻訳者であるため、やはり翻訳者が負担すべきものだと思う。



ただし、翻訳者が負担すべきだという話と、登録費用が妥当かどうかはまた別の問題だ。
最上位のAPTは2年で25,000円である。この値段は平均的なフリーランス翻訳者の1〜2日分程度の売上に相当する。

私は知らなかったのだが、川村インターナショナルのブログ記事によると「有資格翻訳者の情報は日本規格協会のWebサイト上に公開」されるということだ。日本規格協会(JSA)経由で仕事が得られるチャンスが生まれるらしい。また、この登録をもってトライアルに代える(免除する)翻訳会社も出てくる可能性があるようだ。
フリーランス翻訳者が下手なホームページを開設し、サーバー利用料で毎月1,000円(2年で24,000円)払うことを考えたら、翻訳者登録した方が仕事につながって費用対効果が高いのかもしれない。

こういったメリットと費用を勘案した上で、翻訳者登録制度を利用するかどうかを決めればよいだろう。
ちなみにJSAによると「2019年3月31日までに新規申請する場合の登録料(2年分)は無料」ということなので、もう少し情報が出揃ってから判断しても問題ないはずだ。
20 4月

「翻訳者登録制度」が必要なのはどういった翻訳者か

日本規格協会の「翻訳者登録制度」について、翻訳者の間で不安や批判があるようだ。
明らかな誤解も一部にあるようだが、そもそも日本規格協会ウェブサイトの説明が不足しているため、翻訳者を責めるわけにもいかないだろう。
次の「JTFジャーナル」(#289)で特集が組まれるという話なので、そちらも参照したい。

私は関係者ではないので詳しいわけではないが、私の理解するところで説明してみる(もし誤りがあったら訂正する)。

ここでは、
・ISO 17100に準拠した翻訳サービスを「ISO案件」
・ISO 17100に規定された資格(例:大卒+翻訳経験2年)と力量(例:ほんやく検定など)を認められた翻訳者を「ISO翻訳者」
と呼ぶことにする。



そもそもの話だが、ISO案件に関わらなければ、ISO翻訳者である必要はない
だから「登録していないと翻訳者と認められない」などという話はまったくない。

さらに、翻訳会社のすべての案件がISO案件になるわけではない。今後どの程度がISO案件になるかは、正直なところ予想できない。
ただ、翻訳会社としては、ISO案件を「高付加価値」のサービスにできるだろう。今まで翻訳サービスは一緒くただったが、明確な基準(ISO準拠か否か)で値段に差を付けられる可能性が出てきた。そうなると高い値段でクライアントに請求できる。最終的には高単価のような形で恩恵は翻訳者にも及ぶだろう。



仮にISO案件に関わる場合でも、ISO翻訳者であることを翻訳会社に個別に確認してもらえばよい。
もし翻訳者が「この1社としか取引しない」と決めているのであれば、1社だけに確認してもらえばよいので、それほど手間もかからないだろう。その場合、翻訳者登録制度を利用する必要はない。
もし翻訳者が複数の会社と取引している(今後したい)場合、個別確認用の資料を毎回準備するには、手間もコストもかかる。その場合、手間やコストが登録費用を上回るなら、翻訳者登録制度を利用すればよい。

取引量の多い"エース"翻訳者でなければ、翻訳会社も個別確認を嫌がるかもしれない。だから逆にそういう場所に割って入りたければ、あらかじめ登録制度による登録があると有利になるかもしれない。
また現在は、特定の翻訳会社で実績を積んだ場合、他社に対してその実績を証明するのが難しい。翻訳者登録制度では仕組み上、それができるかもしれない(実績のポータビリティー)。そうなれば、ISO案件ではなくても、実績証明に使える可能性がある。



まとめると、翻訳者登録制度がどうしても必要なのは、
・ISO案件に関わり、かつ、
・翻訳会社と個別にISO翻訳者である確認を避けたい
翻訳者ということになると思う。

それ以外の翻訳者は、自分にメリットがあると思えば登録すればよいだろう。

繰り返すが、登録しなければ社会で翻訳者として認められないという話ではないのだ。あくまでISO案件に関わる場合に問題となるだけだ。変な不安を抱く必要はないし、当面は様子見という判断でもよいだろう。
(ちなみに私は今のところ登録する予定はない。)

この後、5/31に東京で説明会がある。正確な説明を聞いたり質問をしたかったりすれば、参加を検討してはどうだろうか。
説明会チラシPDF: http://www.jsa.or.jp/wp-content/uploads/rcct-seminar_201703.pdf
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西野 竜太郎
(Ryutaro Nishino)

翻訳者/コンサルタント。合同会社グローバリゼーションデザイン研究所代表社員。ソフトウェアのインターナショナリゼーションやローカリゼーションが専門。

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