IT翻訳者Blog

翻訳、英語、ローカリゼーション、インターナショナリゼーションなどについて書いています。

カテゴリ: 英語

Yahoo Japanの「新型コロナワクチン情報まとめ」を見ていたら、次の画像があった。

アストラゼネカの行に「有効性 〜76%」とあり(赤枠)、私はここが気になってしまった。


(出典:https://news.yahoo.co.jp/pages/20210122、閲覧:2021-07-02)


これを見た人は、普通は「最大で76%」と解釈するだろう。日本語で「〜」は「数字の範囲」を示すのが一般的である。例えば共同通信社の『記者ハンドブック』でもその意味で使っている。範囲の右側だけに数字があるので「最大」という解釈になる。最大なのだから、有効性は10%かもしれないし60%かもしれない。

しかし日本語の「〜」によく似た英語の「~」(チルダ)には別の意味がある。「」や「およそ」である。この意味を掲載している辞書は実は少ないのだが、たとえばMerriam-Websterの「tilde」には2bに「the mark used to indicate an approximate value」とある(リンク)。

つまり「〜76%」を見て、私は「約76%」の意味かもしれないと疑ったわけである。仮に元データが英語で、日本語にした際に単に記号を「~」から「〜」に置き換えたという可能性も考慮すると、「最大76%」なのか「76%」なのか判断が悩ましい。

(リンクをたどってアストラゼネカのページを見ると「CI 41.0% to 75.7%」とあり、これを指すならやはり「最大」の意味かもしれないが、医薬分野に疎い私に確証はない)



そもそも英日翻訳時に、単に「~」を「〜」に置き換えることなんてしないだろう、と思う人もいるかもしれないが、実際はよくある。たとえば次の画像は、GoogleのAndroidアプリ開発ガイドで、解像度をまとめた表である。「〜120dpi」などの表記が確認できる。

▼日本語訳

(出典:https://developer.android.com/training/multiscreen/screendensities?hl=ja、閲覧:2021-07-02)

▼英語原文

(出典:https://developer.android.com/training/multiscreen/screendensities、閲覧:2021-07-02)

このように英語の「~」は和訳時に「〜」に単純に置き換えられることがよくある。そして上記画像の「〜」は「数字の範囲」ではなく「約」と解釈するのが適当である。

ただ、これは読者の側ではなく、やはり翻訳をする側に問題があると思われる。というのも、日本語では一般的に「〜」は「数字の範囲」を示すからである。和訳したと言うのであれば、当然日本語の慣習に合わせるべきだろう。



このように英語の「~」と日本語の「〜」は意味が必ずしも一致しない。見た目が似ているから同じ意味だと思って英語を読むと恐ろしい目に遭う。特に厳密に数字を扱っている場合には注意したい。

(なお英語WikipediaのTildeの項目にも詳しい解説がある)
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先日、東海道新幹線に乗っていたら、各座席の前に案内が掲載されていた。開くとテーブルになる部分である。

東海道新幹線の座席部分案内


英語の案内文を見ていると、自分なら英文テクニカルライティングの発想でこう書くのではないか、と感じる点がいくつかあった。そこで試しに書き直してみたい。
現状の英文が間違いだと言いたいのではなく、あくまでテクニカルライティング的な発想をしたらという一例である。



まず「SOS」というオレンジ色のアイコンの右側にある2つの英文である。

【1】In case of emergency, you can talk to the train crew via intercom beside the door.
 → In case of emergency, you can talk to the train crew via the intercom beside each door.

ここは冠詞の使い方に疑問があった。特に末尾に「the door」とあるが、読者がどのドアか特定できているかは不明だ。定冠詞theは読者が知っているものに対して使う。図をよく見ると、車両の前後どちらのドアにも「SOS」アイコンがある。つまりどのドアの脇にも通話装置があると考えて「each door」を使った。


【2】Please notify the train crew immediately if you find any suspicious items or unattended baggage.
 → If you find any suspicious items or unattended baggage, notify the train crew immediately.

英文テクニカルライティングだと、文の最初に条件節を書くとされている(Googleの例)。どのような条件であればこの文を読み進めればよいのか、最初に提示するためである。つまり、不審物などを見つけた場合にのみ全文を読めばよいので、読者に余計な負荷をかけずに済む。
また、指示文に「please」は不要とされている(同じくGoogleの例)ので削除した。日本語的な発想だと失礼な感じがするが、英文テクニカルライティング的には問題ない。


続いて、ノートPCと携帯電話のアイコンの右側にある2文である。

【3】The power outlet located in your armrest is for laptop or mobile phone only. Be aware that supply voltage may shutdown or fluctuate.
 → … Be aware that supply voltage may shut down or fluctuate.

文自体は変えないが、shutdownは基本的には名詞の扱いである。だから「shut down」の方がよいのではと思われる。


【4】Please be considerate of other passengers while using your device.
 → While using your device, be considerate of other passengers.

ここも【2】と同様、(1)条件部分を最初に書き、(2)pleaseを削除した。


続いてWi-Fiアイコンの右にある英文である。

【5】Free Wi-Fi service is available in this train.

この文も変更はしない。しかし単にWi-Fiが使えると書いてあるだけでは、読者にとって親切ではない。どうやったら使えるかという情報があった方が望ましいのではないか。


最後に「i」のアイコンの部分である。

【6】Please check here for operating information.
 → For operating information, visit our website using the QR code:

ここは大幅に変えてみた。まず、前述のように条件部分(For operating information)を前に置いた。
続いて、元の文の「here」である。自分が一読した際、hereが何を指すのかすぐに理解できなかった。図をよく見るとさらに右側にQRコードがあるので、これがhereを指すものを思われる。実際に試してみると、QRコードからURLを読み取り、そのウェブページにアクセスして運行情報を得るという流れだった。そうであれば、この流れを明示した方がよいのではないかと思い、上記の英文に書き直した。
また文末にコロン(:)を付けた。コロンは後に情報が書かれているという目印になるので、ピリオドで文を終えるのではなく、コロンを使った。



各文について検討してみたが、実は文レベルだけではなく、情報全体の構成方法も工夫した方がよいのではと感じた。

写真を見ると、中点の後に日本語と英語がリストでダラダラと並んでいるような印象がある。そのため、明示的に「見出し」を付けた方がよいのではないか。見出しがあれば情報を見つけやすい(Googleスタイルガイド)。現状では左端のアイコンが見出しっぽくなっているようだが、リスト項目を読んだ後で初めて見出しだと気づく。それならば見出しの役割は果たしていない。付けるとしたら、たとえば以下のような見出しである。

■ Emergency
・In case of emergency, you can talk to the train crew via the intercom beside each door.
・If you find any suspicious items or unattended baggage, notify the train crew immediately.

■ Power outlet
・The power outlet located in your armrest is for laptop or mobile phone only. Be aware that supply voltage may shut down or fluctuate.
・Please be considerate of other passengers while using your device.



また、現在は英語と日本語が交互に書かれている。もし英語と日本語を分けて別々のエリアに書いておけば、ある言語での情報をいっぺんに見渡せるはずである。情報の見つけやすさを考えたら、そのような全体構成にしてもよいかもしれない。
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プログラミング英語検定のブログに、頻出英語表現を解説するコーナーを作りました。以下、初回のリンクです。

 頻出英語表現(1):詳細は◯◯を参照してください
 https://progeigo.org/english-topics/2020/expressions-01-for-more-information/

同ブログでは、Googleの開発者向け英文スタイルガイドを紹介する記事も毎月更新しています。



これに関連して言うと、主婦と生活社が運営する「CHANTO WEB」に記事を載せていただいていました(4月掲載なのに今ごろ気づいた…)。

 今の時代に必須!?プログラミング英語検定「無料で勉強できるのが嬉しすぎる」
 https://chanto.jp.net/work/qualification/134330/

記事中にあるように、プログラミング必須英単語600+や、その学習用アプリYouTube動画解説に加え、上記のような解説記事も無償で提供しているので、よかったらご活用ください。
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プログラミング英語検定のウェブサイトで、Googleによる開発者向け英文スタイルガイドの解説記事を書いています。先月と今月は、情報を見やすく整理する「リストの使い方」でした。

リストの使い方(1)
https://progeigo.org/english-topics/2020/google-styleguide-4-lists-1/

リストの使い方(2)
https://progeigo.org/english-topics/2020/google-styleguide-5-lists-2/

リストは、ちょっとした手順を説明したり、例示をしたりする際に便利です。
英語では特に「following」という言葉とコロン(:)の使い方を覚えておくと、それらしいリストになります。
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多少は英語が書けるようになると、同じ単語の繰り返しを避けたり、もっと適切な表現を探したりしたくなる。そういうときには類義語や反意語が掲載されているシソーラス(thesaurus)を当たることになる。

有名な辞書にもシソーラスはある。ただ、ウェブページの表示が遅かったり、提示数が不十分だったりすることがある。母語でもない英語を書いているときは、どうにか思い浮かべた言葉から、もっとうまく言い表せそうな表現を何としても見つけたい状態である。だから、とにかくすばやく大量に類義語を提示して欲しい。

そんな中、まさに期待通りのシソーラスが見つかった。タイトルにもある「Power Thesaurus」である。

Power Thesaurus
https://www.powerthesaurus.org/

たとえば「regarding」という言葉で検索する。すると即座に写真のように類義語が一覧で表示される。広告が少ないのも表示が速い理由かもしれない。



デフォルトでは「rating」の順に表示されるが、これは利用者たちの投票によるスコアだ。つまり、単に類語が羅列されているというより、実際に使用されていると思われる順に提示されている。

その投票はもちろん自分でもできる。写真の上矢印(緑色)や下矢印(赤色)を押せばよい。





ページの左側を見ると、さまざまなメニュー項目がある。



たとえば上部の「Lists」には「synonyms」(類義語)のほかにも、「antonyms」(反義語)、「definitions」(定義)、「examples」(例)がある。定義については、別の定評ある辞書も併せて見てもよいかもしれない。

下部の「Parts of speech」(品詞)メニューを使うと、品詞で絞り込める。「expressions」というのは2語以上の表現なので、単に英単語だけでなく、イディオムのようなものまで提示してくれるので便利である。



ユーザー投票によるシソーラスなので、専門家的視点から見るとやや怪しい部分があるかもしれない。ただ、実際にどれをユーザーが使っているかという情報は貴重である。またすでに10年以上使われている実績はある。

だから、Power Thesaurusは「速く大量に類義語を提示する」という目的に使い、定義などの確認はきちんとした辞書を活用するという合わせ技が良いのかもしれない。
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