rnishino

IT翻訳者Blog

翻訳、英語、ローカリゼーション、インターナショナリゼーションなどについて書いています。

その他

6 3月

モノのロングテールが始まる

ダイヤモンド・オンラインにクリス・アンダーソンのインタビューが載っていた。

独占インタビュー!『FREE』著者のクリス・アンダーソンが語る「無料経済を勝ち抜く企業と個人の条件」
http://diamond.jp/feature/dolweekly/10001/

タイトルの通り、ほとんどが『Free』に関する話題である。しかし、最後の方で次に発表する本について少し話している。
それほど長くないので引用してみる。
―あなたの次の本のテーマは「マイクロ製造」だと聞く。それが新産業の一つの例か。

そうだ。今やインターネットのおかげで、私のようにエンジニアではない人間でもラップトップ上でロボットを設計し、ごくわずかな単位でも中国の企業に製造を発注できる。どんな小さな企業も、街中のクリーニング店以上の存在になれる時代だ。世界にインパクトをもたらすことができる時代だ。実は私も最近、ロボット製造ベンチャーを起業した。

インターネットは企業という組織を離れて新しい共同作業を行う方法を与えてくれた。次は、その教訓を現実のモノの世界に応用することになるはずだ。要するに、アトム(物質)が次なるビット(情報)なのだ。つまり、PCの中でビットを扱うように、物理的なものを自在に組み合わせて何かを作ることができるということだ。

―あなたの関心は、既存産業の破壊にあるのか?

違う。“個”の台頭だ。『ロングテール』は小さな個別市場の台頭にスポットライトを当てた。『フリー』はプラットフォーム上での“生産”が無料になれば、人びとが金銭だけにとらわれず行動できるようになることを説いた。

そして次の本は、需要と製造の可能性はまだまだあるということについて書く。大企業で働かなくとも、いいアイデアと熱意、そして貢献できる“何か”を備えていれば、その個人の潜在能力は計り知れなく大きいことを示したい。
これは、アンダーソンが Wired の 2 月号に書いた記事と同じ内容だろう。
リンク先は英語である上に少々長いので、概要を知りたい方は私のブログに要約を載せてあるので読んでいただきたい。
また、アンダーソンが同じく Wired の Podcast で行なったインタビューもこちらで聴ける(ただし英語)。

簡単に言うと、(1)プロトタイプ ツールの低価格化(2)中国の工場へのネット経由による発注、という 2 点によって、資本の少ない個人がデザインから製造まで行なえるようになりつつあるということである。
これは、個人がブログや DTP で「出版業」ができるようになってビットのロングテールが実現したのに対し、モノのロングテールが始まることを意味する。
しかしそれによって製造業を行なっている大企業を打ち倒す、というわけでは必ずしもない。大企業が扱わないようなロングテールの部分を狙うということである。Wired の記事では、例えば「レゴ ブロックの兵隊の武器」という非常に狭くて大企業が進出しないような分野で商売している会社が紹介されている。

注意したいのは、製造業といっても個人が担うのはデザイン(設計)の部分であって、実際の製造は中国に委託するということである。これはアップルの製品に「Designed by Apple in California, Assembled in China」と書いてあるのと同じだ。
個人が担当し、かつ高い付加価値を与えられるのは、そういったデザインの部分(知識集約型)なのであり、実際に機械を使った製造という部分(資本集約型、労働集約型)ではない。

25 2月

意外と同情を集めているトヨタ社長の涙

ここしばらくの間、アメリカのニュースのトップはハイチかオリンピックかトヨタでした。いよいよトヨタの社長が下院公聴会に呼ばれ、一体どうなることかと思っていました。
議会での証言後に地元ディーラーとの会合に出席して、涙を流したそうです。

Toyoda's tears
http://www.youtube.com/watch?v=OItBnWHjlFM
ロイターのビデオ(YouTube)

マスメディアのニュースばかり見ていると気がつきませんが、意外にトヨタ擁護の声はネット上に多いようですね。このロイターのコメントを見ると、トヨタ批判はそれほどなく、比較的好意的なものばかりです。
流暢な英語でスピーチして冷静な顔をしているより、巨大企業トップの人間的な側面の方が同情を引くのでしょうか。

また、CNN のコメントを見ても、トヨタを買い続けるというコメントが多いです。
むしろフォードや GM に対する批判が多い。

Analysis: How did Toyoda do?
http://www.cnn.com/2010/BUSINESS/02/25/toyota.congress.react/index.html

Toyoda in Washington: A clash of cultures?
http://www.cnn.com/2010/BUSINESS/02/24/money.toyoda.culture.clash/index.html

少なくともこういったコメントを見ると、トヨタに対する信頼は崩れていないようです。
選挙を控えている下院議員の「政治的パフォーマンス」みたいに捉えている人も多いんでしょうね。
20 2月

世界で最も革新的な企業(2010 年版)

Fast Company 誌が「世界で最も革新的な企業」の 2010 年版を発表しています。

詳しくはリンク先を見てください。
http://www.fastcompany.com/mic/2010

ここで一覧になっている上位 50 社を国別に挙げると・・・

アメリカ 36
中国   4
インド   2
イギリス 1
ドイツ   1
フランス 1
オランダ 1
スイス  1
台湾   1
韓国   1
日本   1

アメリカが 1 位であるのはそれほど不思議ではありませんが、それにしても上位の 7 割以上がアメリカ企業です。
アメリカの雑誌が集計している点を割り引いても、圧倒的です。

驚くのは、中国が 2 位、インドが 3 位という点でしょうか。どちらも日本より多い数の企業が入っています。
(ただし分野別ランキングで、「中国」「インド」があるので、その影響かもしれません)

中国とインドでどのような企業が入っているかと言うと・・・

・中国
 5 位 Huawei: 通信機器
16 位 BYD: 自動車、電池
29 位 Alibaba: B2B オンライン マーケット
42 位 Huayi Brothers: 映画/テレビ番組制作

・インド
22 位 Indian Premier League: クリケット リーグ運営
39 位 VNL: 太陽電池式の携帯電話基地局網

中国は国際的な企業が多いですが、インドは主に国内市場をターゲットにしている企業のようです。

ちなみに同じアジアの台湾と韓国は・・・

・台湾
31 位 HTC: 携帯電話

・韓国
36 位 Samsung: 家電、メモリ、携帯電話

最後に日本は・・・

・日本
41 位 ファースト リテイリング: 衣料品(ユニクロ)

日本企業は、上位 50 社ではファースト リテイリングのみです。
上位 50 社以外でも分野別ランキングが出されていて、家電分野でオリンパスが 9 位になっています。
ゲーム分野で「Muteki Corp.」とあったので、日本の会社かと思ったらアメリカ企業でした。
日本が得意だと思われていた家電やゲームの分野でも、台湾や韓国の企業が入る一方、日本企業に革新性があると認められていないようです。

(リンク先を見ると、「SPONSORED BY HITACHI」となっています。これは一体何かの皮肉なのか・・・)
1 2月

個人で始める製造業: クリス・アンダーソンの記事について

『フリー』の著者であるクリス・アンダーソンが Wired に記事を書いています。

In the Next Industrial Revolution, Atoms Are the New Bits
http://www.wired.com/magazine/2010/01/ff_newrevolution/

要約すると以下のような内容です。
----------
この 10 年間で、インターネットのおかげで出版や放送を行なう人が増え、「ビットのロングテール」現象が起こった。
今後 10 年間で、これと同様なことが「製造業」でも発生する。「原子(atom)のロングテール」と言うべき現象である。
アイデアを持つ人であれば、個人でモノを製造して販売できるようになる。

この現象は 2 つの要因に後押しされる:

(1)安価で高性能なプロトタイプ製作ツールが普及する
例えば「MakerBot」は、3 次元プリンターを 1,000 ドル未満で販売している。これはプラスチックで立体を形成する機械である。

(2)中国の工場にカスタム製品を発注できる
インターネット経由で注文を受け、クレジットカードなどでの支払いが可能な企業が増えている。「Alibaba.com」などを見るとそういった工場は見つかる。


アイデアから販売までの手順:

1. アイデアを出す
すでに特許が出てないか確認するした方がよい。

2. デザインする
Blender などの無償のツールで 3 次元のデジタルモデルを製作する。

3. プロトタイプを作成する
MakerBot などの 3 次元プリンターでプロトタイプを作成する

4. 製造する
小規模ならガレージでもよいが、世界を目指すなら中国に発注する。

5. 販売する
オンラインで消費者に直接販売するか、E コマースサイトを利用する。
----------

技術の発展により、それまで巨大な資本を持つ企業にしかできなかったことが個人でできるようになりました。
出版や放送の例を挙げるなら、ブログや Youtube の動画です。これらはビット(電子データ)を扱うため、容易にコンピュータで処理したりネットワークで伝送したりできます。
コンピュータの低価格化やネットワーク帯域の増大によって、資本の少ない個人が出版業や放送業を始められるようになったのです。

上記の通り、アンダーソンは今後 10 年で同じ傾向が物理的なモノにまで及んでくると言っています。つまり、個人で製造業を始められるということです。
ただ注意したいのは、町工場に代表されるような、いわゆる「ものづくり」的な製造業ということではありません。
個人が担うのは、アイデアやデザインといった知識集約型の部分であり、実際の製造という資本集約型(場合によっては労働集約型)の部分ではないのです。
アンダーソンは Jawbone というノイズキャンセラーを製造している企業を例に挙げています。ここは工場は持たず、製造はすべてアウトソーシングしているようです。

アンダーソンの予想が的中するなら、GDP における製造業の割合が大きい日本は、不利な立場に立たされるでしょう。
ブログなどの個人メディアの発展により、収益を脅かされる新聞社や出版社と同じ立場です。
アイデアやデザインといった知識集約型の部分をいかに伸ばせるかで、今後の日本経済の行く末が決まるような気がします。
(Apple の台頭を見れば、もう始まっているのでしょうけど・・・)
続きを読む »
3 1月

2010年の学生生活と専門職大学院

あけましておめでとうございます。

いよいよ 2010 年の 3 月に現在通っている産業技術大学院大学を卒業します。
卒業まで 3 か月間ほどありますが、実際の活動は 2 月 11 日の PBL 成果発表会までです。
(ちなみに私は中鉢 PBL の「ソフトウェア開発とマネジメント」に所属)
つまり、あとほぼ 1 か月です。

この社会人学生の 2 年間はやはり充実していたと思います。
授業や PBL(Project-based learning)活動を通じて実際の IT 関連知識を得られたことはもちろん大きかったです。
しかしそれと同等に、他の社会人学生と知り合えたという点が意義深かったと感じています。
異なる分野で活躍している人たちと、IT という共通の興味を介してつながりを持てたことは、今後の人生の中で貴重な財産になります。


産業技術大学院大学は「専門職大学院」であり、高度専門技術者を育成するために設立されました。
日本では、企業が大学新卒者を年に 1 回一括で採用し、企業内研修などによって育成するという方法が一般的かと思います。
そう考えると、専門職大学院に通ってスキルを磨く人というのは少数派であり、日本企業の慣例から見ると「異端」なのでしょう。

しかし、海外を見ると、社会人が働きながら大学などの公的教育機関を修了することは珍しくありません。
例えばアメリカでは「コミュニティーカレッジ」という公立の 2 年制大学があります。
卒業後に 4 年制大学に編入することもできますし、専門技能のコースを修了して就職することもできます。
地元の住民であれば、授業料は格安で、夜間に開かれるクラスも数多くあります。
私も高校卒業後にアメリカ留学したときに、コミュニティカレッジに入学しました。
昼間はやはり若い学生が多いのですが、夜間には社会人が多く、少し驚いたことを覚えています。

また、イギリスやオーストラリアでは、1 年制で主に職業直結の課程を提供している大学院が数多くあります。
こういった課程では「Master of Science in ○○」や「Master of Art in ○○」ではなく、「Master in ○○」(○○は専門名で、例えば Information Systems)という学位を出すことが多いようです。


上記のように企業内で人材を育てる日本企業では、その企業でしか通用しない知識やスキルしか身に付かないため、社員は転職や再就職が難しくなります。
この硬直的な雇用慣習のため、成長産業に人材が移動できず、日本経済停滞の一因になっているという意見も聞きます。
専門職大学院が活用され、高度な技能を身に付けた人が適材適所で働けるようになれば、日本経済の発展も期待できるでしょう。

産業技術大学院大学はぜひがんばってもらいたいですし、在学生(もうすぐ卒業生)としても何か貢献したいと思っています。
★6/22発売の翻訳書★
血と汗とピクセル 『血と汗とピクセル』
筆者について
西野 竜太郎
(Ryutaro Nishino)

翻訳者。合同会社グローバリゼーションデザイン研究所・代表社員。日本翻訳連盟・理事。
プロフィールや連絡先などについてはこちらをご覧ください。
Twitterアカウント
RSS フィード
著書
アプリ翻訳実践入門
『アプリ翻訳実践入門』


ソフトウェアグローバリゼーション入門
インプレス刊
『ソフトウェアグローバリゼーション入門』

達人出版会刊
『ソフトウェア・グローバリゼーション入門』


英語語源が魔術に変わる世界では
『英語語源が魔術に変わる世界では』


現場で困らない! ITエンジニアのための英語リーディング
『IT英語リーディング』


アプリケーションをつくる英語
紙版
『アプリケーションをつくる英語』

電子版
『アプリケーションをつくる英語』
第4回ブクログ大賞受賞】