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IT翻訳者Blog

翻訳、英語、ローカリゼーション、インターナショナリゼーションなどについて書いています。

24 11月

オンライン講座「プログラミング英語の読み方」を出しました

先週、「プログラミング英語の読み方」というオンライン講座を私の会社から公開しました。

・リンク:https://globalization.thinkific.com/courses/reading-programming-english

academy_reading_20201117

ソースコードの関数名やコメント、APIリファレンス、マニュアルなど、プログラミングで触れる英語ドキュメントを読むコツを解説しています。ビデオは約1時間半です。
また、重要な英単語や英語表現をまとめた資料(PDFファイル)がいくつもダウンロードできるようになっています。

価格は1,650円で、90日間アクセス可能です。無料プレビューも可能です(ただし登録要)。

なお基本的には『プログラミング英語教本』をベースにしており、同書をお読みの方には新しい内容ではないのでご注意ください。
22 11月

数字で測って比べる不幸

ここ何年かの間、「翻訳の品質とは何か?」、「それをどう測定できるのか?」という問題に取り組んできた。一応の結論として「JTF翻訳品質評価ガイドライン」という形で公開できた。

もちろん一直線に結論に到達したわけではなく、悩ましい問題もあった。従来、業界では「翻訳品質はエラーの数で測る」という手法が広く用いられてきた。たとえば用語集違反が1つあれば、それに深刻度を掛けて点数にする。点数を合計し、低ければ高品質とする考え方だ。出るのは数字だし、他と比較も可能なので、客観性のある方法だと考えられている。

しかし、そもそも翻訳の良し悪しをエラー数だけで測ってよいのかという疑問はあった(記事)。たとえば広告の場合、用語集やスタイルガイドに違反した(=エラー)としても、最終読者の心を動かすような訳文に仕上げたほうが、発注者も翻訳者もうれしいはずだ。そのため上記ガイドラインでは「適切な場面では、主観評価なども組み入れて評価しましょう」といった主張になっている。

◆ 代用特性とは

何かの品質特性(上記なら翻訳の良し悪し)を直接的に測るのが難しい場合、代わりに別のもの(上記ならエラー数)で測る。品質管理分野ではこの別のものを「代用特性」と呼ぶ。たとえばQC検定4級のテキストにはこう説明されている。
要求される品質特性を直接測定することが困難な場合、同等又は近似の評価として用いる他の品質特性。

「品質管理検定(QC検定)4級の手引き Ver.3.1」p. 40(https://webdesk.jsa.or.jp/pdf/qc/md_4611.pdf


実はこの説明の末尾に重要な一文が書かれている。
代用特性は、要求される品質特性を直接測定しているわけではありません。したがって、要求される品質特性と代用特性との関係を十分に確認することが必要です。

要するに、本当に図りたい品質をその代用特性で測れているのか、その代用特性は妥当なのか、という疑問を常に持てという話である。また、単に測りやすいからという理由で、ある代用特性を利用するのも望ましくないだろう。

翻訳業界で代用特性が使われる場面は、上記のエラー数以外にもある。一例を挙げると「TOEICの点数で機械翻訳の質を測る」ケースである。詳しい測り方はこちらの記事で説明しているが、私も含めて多くの翻訳者は批判的に捉えている。品質特性(=翻訳の質)と代用特性(=TOEIC点数)との間に十分な関係がないのではということである(外国語ができるだけでは翻訳はできない)。

しかしながら、最初に挙げたエラー評価も、TOEIC点数による機械翻訳システム評価も、疑問を持つことなく使われることが多い。あるいは疑問を持ちつつも、仕方なく使っているのかもしれない。というのも数字で出すと比較が容易であるし、客観性があると思われて人を説得しやすいからである。このとき”客観性”という錦の御旗に隠されてしまうのが、上で説明した代用特性の妥当さである。

数字で測って比べるのは客観性があるのかもしれないが、その結果、本当に測りたいものが測れていないのであれば残念なことである。



よく考えてみると、人生や社会生活の中でも、代用特性の妥当さをよく考えないまま使ってしまい、結果的に不幸になるケースはありそうだ。

たとえば、学校の良し悪しに「偏差値」を、就職先企業の良し悪しに「年収」を代用特性として使ってしまうような場合である。どちらも数字なので客観性があって説得力はありそうだし、ほかとの比較も簡単だ。そういった代用特性を何も考えずに使って入学先や就職先を判断してしまうと、人によっては悲しい境遇に陥ることになるだろう。



数字で測って比べるのは、客観性があり説得力もある。しかしその数字が代用特性である場合、真に測りたい品質特性との関係は十分なのか、妥当であるのかを常に意識しておきたいものである。


10 11月

『自動翻訳大全』を読む

先月発売された『自動翻訳大全』(坂西優/山田優・著、三才ブックス)を読んだ。読む、書く、聞く、話すという英語を使う場面で、自動翻訳(機械翻訳)を活用する方法を解説した書籍である。



実は私も以前、ITエンジニア向けに書いた『ITエンジニアのための英語リーディング』という本の中で、機械翻訳を援用してうまくライティングをする手法を解説した。ただ、基本的にリーディング本だったので、補足程度に4ページを割いただけだった。

ITエンジニアのための英語リーディングp172

(『ITエンジニアのための英語リーディング』p. 172-173より)

私はライティングで機械翻訳を活用するポイントとして以下の2点を挙げた。
・文を短く切る
・主語と目的語を明示する


当時は2017年で、「ニューラル機械翻訳」が一般に使われるようになって1年も経っていなかった頃だった。しかしニューラルが普及してその特徴が明確になり始めた現在、果たして上記2点はまだ有効なのだろうかという疑問を抱きつつ、『自動翻訳大全』を紐解いた。

結論から言うと、この2点は今も有効なようであった。
『自動翻訳大全』では「『書く』ためのポイント」として、6つの点をまとめている(p. 136)。そのうち以下が私の2点に該当する。
2. 文章は短く、シンプルにする。1文が長い場合は、2文にわける。敬語は使わない。平語で書く。
3. 主語(「誰が」)は省略せず、ハッキリ書く。また、所有格(「誰の」)や時間情報(「いつ」)を明確にする。文末の句点(。)は省かず、必ずつける。


『自動翻訳大全』では、ほかに4つのポイントを挙げている。たとえば「日本語特有の比喩、慣用句、オノマトペ(擬声語)は使わない」である。つまり、私の著書ではカバーされていない具体的なノウハウや知見が記載されており、機械翻訳を英文ライティングに活用したい人にとって有益だ。



機械翻訳の質が向上したと聞くと、どうしても「英語を学ばずに済む」という話になりがちだ。しかし『自動翻訳大全』を読むと、やはりある程度の英語は学んでおかなければならないという感想を抱く。

というのも、機械翻訳の出力が妥当で信頼できるかどうかは、結局、英語を理解できなければ判断できないからである。たとえば前述のライティングで利用する場面では明らかである。
また、たとえば『自動翻訳大全』ではリーディング時に活用する際、「コンマのない長文は『5つの接続詞』で区切る」というポイントを挙げている。5つの接続詞とは、before、after、when、if、butである。そもそもこういった単語を知っていたり、接続詞という概念を理解しておいたりするには、最低限の英語を学んでいなければならない。



『自動翻訳大全』の共著者である関西大学の山田優さんは、翻訳業界では著名な人である。ただし「機械翻訳万能派」のようなイメージを持たれ、翻訳者から批判を受けることもあった。しかし本書の「おわりに」(p. 280)にはこうある。
しかし、今の自動翻訳は、語の配列のデータに基づいて、非常に高精度の確率計算をしているだけです。はしょっていうと、それは、何か「似ている言葉」に置き換えているだけなのです。それでいて、高精度な翻訳を実現してしまっているからすごいのですが、逆にいえば、本当の翻訳とは、そんなに単純なものではないよ、というのが本書で、最後にどうしても伝えておきたいポイントになります。


私自身も同じく、「機械翻訳は『翻訳』をしていない」と考えている。「翻訳」は単に字面のテキスト情報だけでできるものではなく、テキスト外部にある情報も参照しなければできない。最近、私や山田さんなどでその外部情報の1つとして「仕様」も探っている(論文PDF)。

「本当の翻訳」をあぶり出すためには、機械翻訳が何であるか、どこまでできるかという理解は欠かせない。そのためにも、山田さんには不屈の精神で研究を進めていただきたいと感じる。



著書/訳書
血と汗とピクセル
『血と汗とピクセル』


アプリ翻訳実践入門
『アプリ翻訳実践入門』


ソフトウェアグローバリゼーション入門
インプレス刊
『ソフトウェアグローバリゼーション入門』

達人出版会刊
『ソフトウェア・グローバリゼーション入門』


英語語源が魔術に変わる世界では
『英語語源が魔術に変わる世界では』


現場で困らない! ITエンジニアのための英語リーディング
『IT英語リーディング』


アプリケーションをつくる英語
紙版
『アプリケーションをつくる英語』

電子版
『アプリケーションをつくる英語』
第4回ブクログ大賞受賞】