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IT翻訳者Blog

翻訳、英語、ローカリゼーション、インターナショナリゼーションなどについて書いています。

16 7月

「プログラミング英語検定」正式版開始/団体受験モニター募集

自社で制作している「プログラミング英語検定」のベータ版が終了し、正式版が7/15に開始となりました。



これに関し、ICT教育ニュースで記事にしていただきました。

 グローバリゼーションデザイン研究所、「プログラミング英語検定」正式版を開始
 https://ict-enews.net/2020/07/16globalization/



記事中にもありますが、現在「団体受験のモニター(試用者)」を募集しています。
これはアンケート回答を条件に、企業や学校向けに10〜50人分の受験チケットを提供するというものです。
もし自社や自校で実施したいという方がいらっしゃったら、こちらからご応募ください。8月末が締切です。

以上です。
30 6月

「リンギスト」を考える

海外の翻訳業界において「linguist」という職業名はよく見かける。翻訳作業に加え、対訳用語集管理や品質保証など、複数言語に関わるさまざまな仕事をする人を指す。現代の翻訳サービスにおいて欠かせない仕事をしている。しかし日本において「リンギスト」という呼称はあまり聞かない。圧倒的に「翻訳者」が多い。

これを言うと関係者から嫌がられそうだが、翻訳業界はずっと「外国語を使う憧れの仕事・翻訳者」というイメージでビジネスをしてきた。翻訳者になるための講座や情報誌を用意し、厳しいトライアルに合格した人と「翻訳者」という肩書で取引契約をする。もちろん多くの職業にもそのような面はあるし、自分自身も乗っかっている部分はあるので、批判するわけではないが。

「翻訳者」には堅固なイメージがあるため、たとえば対訳用語管理のような仕事があったとしても、「自分は『翻訳者』だから翻訳しかしない」と避けたり、「『翻訳者』でお願いしている手前、用語管理は頼みづらい…」と翻訳会社が躊躇したりする。要するに翻訳者という肩書は、実際のビジネス需要と乖離してしまっている恐れがある。

では、対訳用語管理や品質保証のような仕事はどう扱われているかと言うと、「翻訳の周辺業務」という位置づけである。しかしこれも「翻訳が一番尊い」というイメージから生まれた位置づけに過ぎない。たとえば大規模な翻訳プロジェクトの場合、用語やスタイルの決め方ひとつで、翻訳成果物全体の品質が変わってくる。また、翻訳者の訳文の品質保証をするなら、その誤りを指摘できる程度に翻訳ができなければならない。つまりリンギストの仕事内容は、周辺業務どころか、翻訳サービスにおける中核なのである。



このようにリンギストは重要な役割を担っているのにもかかわらず、仕事の価値はあまり認められていないし、IT化された現代の翻訳サービスの実態とも乖離が生じている。また「リンギスト」という呼称も、日本の翻訳業界内ですら定着していない。

そこで、リンギストの仕事の内容やその重要性を発信するためにウェブサイトを作成した。今後、情報を充実させる予定である。

 https://linguist.work/

※ 上記ウェブサイト上にも書いてありますが、リンギストの仕事をしている人や興味がある人でゆるく意見交換をするために、Facebookのグループを作成しました。関心がある方はご参加ください。非公開グループなので、企業勤務の方もどうぞ。
27 6月

書評「翻訳会社の一般理論」

2017年10月に、翻訳業界調査をしているNimdzi社のRenato Beninatto氏らが「The General Theory of the Translation Company」(翻訳会社の一般理論)という書籍を出した。当時(海外の)業界ではそこそこ話題になっていたが、やっと最近読み終わった。




名前の通り、同書では「翻訳会社」の機能や仕組みを解説している。1枚の図で表すとこうである(同書より引用)。



まず中央の黄色い部分が翻訳会社の中核機能(Core Functions)である。これには3つが挙げられている。

 ・ベンダー管理(Vendor Management)
  ※ここでベンダーとは発注先(フリーランス翻訳者や翻訳会社)
 ・プロジェクト管理(Project Management)
 ・営業(Sales)

また、その外側にあるのが支援活動(Support Activities)で、8つ挙げられている(図だとやや文字が読みにくい)。

 ・経営(Management)
 ・企業組織(Structure)
 ・企業文化(Culture)
 ・財務(Finance)
 ・施設(Facilities)
 ・人的資源(Human Resources)
 ・テクノロジー(Technology)
 ・言語品質保証(Language Quality Assurance)

一番外側にあるのは、市場に影響を与えるもの(Market Influencers)である。

 ・新規参入者(New Entrants)
 ・顧客(Customers)
 ・代替品(Substitutes)
 ・競合他社(Rivalry)
 ・供給業者(Suppliers)



翻訳会社の機能については、以前自分のブログ記事でもまとめたことがあった(同じ2017年の1月だった)。見出しだけまとめる。

 【クライアント側から見た機能】
  A. コーディネーション機能
  B. プロジェクト管理機能
  C. 品質保証機能
  D. 編集/校正機能

 【翻訳者側から見た機能】
  a. 営業機能
  b. 教育/サポート機能

こう見ると、Beninatto氏らの言う中核機能と支援活動に該当するものが含まれている。

 ・ベンダー管理 → A. コーディネーション機能
 ・プロジェクト管理 → B. プロジェクト管理機能
 ・テクノロジー → (一部)b. 教育/サポート機能
 ・言語品質保証 → C. 品質保証機能

一般的な企業でも必要な「企業文化」や「財務」などを除くと、翻訳会社特有の機能についてはかなり認識は一致しているように思える。



ただし「品質保証」については異論がある。

Beninatto氏らが品質保証を(中核機能ではなく)支援活動に入れているのは、品質保証が付加価値を生み出さないからというのが理由だ。どの会社でも「高品質」をうたうため、それは差別化要因にならない。例として配管工事が挙げられていた。配管工事を依頼したらきちんと直るのが当然であり、翻訳もそれと同じだという話らしい。

これは品質のうち「当たり前品質」しか見ていないのだと思う。当たり前品質とは「不充足だと不満、充足されて当たり前」(参考)という品質である。確かにそういう面もあるが、翻訳には「不充足でも仕方がない(不満には思わない)が、充足されれば満足」(参考)という「魅力品質」の面もある。たとえばゲームの翻訳が素晴らしく、世界観に引き込まれるようなケースだ。こういう翻訳は明らかに差別化要因になる。



しかし「当たり前品質」こそを品質とみなすのは、グローバルな翻訳ビジネスでは当然なのかもしれない。
同書では、翻訳業界を次のような階層構造として見ている。

(同書より引用)

つまり、一番上にクライアント(LSB)がおり、その下に多言語翻訳会社(MMLSPやMLSP)がいる。さらに下に各地域の多言語翻訳会社(RMLSP)、その下に単言語翻訳会社(SLSP)、そして翻訳実作業をするフリーランス翻訳者(CLP)がいる。

こういう階層構造を想定すれば、下から上まで一貫した品質の翻訳が求められる。ある意味、自動車のような工業製品に近い。用語集などで仕様をがっちり固め、それを守る。下流で部品を上流に納品し、それを組み立ててさらに上流に納品する。仕様を守ることで完成品の品質は安定する。だから多言語を扱う中で、ある言語だけ「魅力的品質」を備えていたら、むしろ品質管理に困る。安定した品質が求められる大量生産の工業製品においては、いち職人の名人芸は面倒を増やす。

翻訳の部品化は良い悪いという話ではなく、階層構造を持つグローバルな翻訳ビジネスを想定するのであれば、当たり前の現実なのかもしれない。
著書/訳書
血と汗とピクセル
『血と汗とピクセル』


アプリ翻訳実践入門
『アプリ翻訳実践入門』


ソフトウェアグローバリゼーション入門
インプレス刊
『ソフトウェアグローバリゼーション入門』

達人出版会刊
『ソフトウェア・グローバリゼーション入門』


英語語源が魔術に変わる世界では
『英語語源が魔術に変わる世界では』


現場で困らない! ITエンジニアのための英語リーディング
『IT英語リーディング』


アプリケーションをつくる英語
紙版
『アプリケーションをつくる英語』

電子版
『アプリケーションをつくる英語』
第4回ブクログ大賞受賞】