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IT翻訳者Blog

翻訳、英語、ローカリゼーション、インターナショナリゼーションなどについて書いています。

10 11月

『自動翻訳大全』を読む

先月発売された『自動翻訳大全』(坂西優/山田優・著、三才ブックス)を読んだ。読む、書く、聞く、話すという英語を使う場面で、自動翻訳(機械翻訳)を活用する方法を解説した書籍である。



実は私も以前、ITエンジニア向けに書いた『ITエンジニアのための英語リーディング』という本の中で、機械翻訳を援用してうまくライティングをする手法を解説した。ただ、基本的にリーディング本だったので、補足程度に4ページを割いただけだった。

ITエンジニアのための英語リーディングp172

(『ITエンジニアのための英語リーディング』p. 172-173より)

私はライティングで機械翻訳を活用するポイントとして以下の2点を挙げた。
・文を短く切る
・主語と目的語を明示する


当時は2017年で、「ニューラル機械翻訳」が一般に使われるようになって1年も経っていなかった頃だった。しかしニューラルが普及してその特徴が明確になり始めた現在、果たして上記2点はまだ有効なのだろうかという疑問を抱きつつ、『自動翻訳大全』を紐解いた。

結論から言うと、この2点は今も有効なようであった。
『自動翻訳大全』では「『書く』ためのポイント」として、6つの点をまとめている(p. 136)。そのうち以下が私の2点に該当する。
2. 文章は短く、シンプルにする。1文が長い場合は、2文にわける。敬語は使わない。平語で書く。
3. 主語(「誰が」)は省略せず、ハッキリ書く。また、所有格(「誰の」)や時間情報(「いつ」)を明確にする。文末の句点(。)は省かず、必ずつける。


『自動翻訳大全』では、ほかに4つのポイントを挙げている。たとえば「日本語特有の比喩、慣用句、オノマトペ(擬声語)は使わない」である。つまり、私の著書ではカバーされていない具体的なノウハウや知見が記載されており、機械翻訳を英文ライティングに活用したい人にとって有益だ。



機械翻訳の質が向上したと聞くと、どうしても「英語を学ばずに済む」という話になりがちだ。しかし『自動翻訳大全』を読むと、やはりある程度の英語は学んでおかなければならないという感想を抱く。

というのも、機械翻訳の出力が妥当で信頼できるかどうかは、結局、英語を理解できなければ判断できないからである。たとえば前述のライティングで利用する場面では明らかである。
また、たとえば『自動翻訳大全』ではリーディング時に活用する際、「コンマのない長文は『5つの接続詞』で区切る」というポイントを挙げている。5つの接続詞とは、before、after、when、if、butである。そもそもこういった単語を知っていたり、接続詞という概念を理解しておいたりするには、最低限の英語を学んでいなければならない。



『自動翻訳大全』の共著者である関西大学の山田優さんは、翻訳業界では著名な人である。ただし「機械翻訳万能派」のようなイメージを持たれ、翻訳者から批判を受けることもあった。しかし本書の「おわりに」(p. 280)にはこうある。
しかし、今の自動翻訳は、語の配列のデータに基づいて、非常に高精度の確率計算をしているだけです。はしょっていうと、それは、何か「似ている言葉」に置き換えているだけなのです。それでいて、高精度な翻訳を実現してしまっているからすごいのですが、逆にいえば、本当の翻訳とは、そんなに単純なものではないよ、というのが本書で、最後にどうしても伝えておきたいポイントになります。


私自身も同じく、「機械翻訳は『翻訳』をしていない」と考えている。「翻訳」は単に字面のテキスト情報だけでできるものではなく、テキスト外部にある情報も参照しなければできない。最近、私や山田さんなどでその外部情報の1つとして「仕様」も探っている(論文PDF)。

「本当の翻訳」をあぶり出すためには、機械翻訳が何であるか、どこまでできるかという理解は欠かせない。そのためにも、山田さんには不屈の精神で研究を進めていただきたいと感じる。



29 10月

翻訳業界調査に回答すると結果がもらえる

現在、JTF(日本翻訳連盟)で翻訳業界の調査を実施しています。
翻訳業に関わっている個人も法人も対象で、回答期限は2020年11月13日までとなっています。

・リンク
https://www.jtf.jp/tips/report

参加者は結果が無料でもらえる(買うと2万円以上)ので、ぜひご回答ください。
(ただしJTF会員であればもともと閲覧可です)

翻訳業界に関する貴重な情報が掲載されるので、この業界で仕事をしている方には役立つはずです。
22 10月

新幹線の案内、英文テクニカルライティング的にはこう書く

先日、東海道新幹線に乗っていたら、各座席の前に案内が掲載されていた。開くとテーブルになる部分である。

東海道新幹線の座席部分案内


英語の案内文を見ていると、自分なら英文テクニカルライティングの発想でこう書くのではないか、と感じる点がいくつかあった。そこで試しに書き直してみたい。
現状の英文が間違いだと言いたいのではなく、あくまでテクニカルライティング的な発想をしたらという一例である。



まず「SOS」というオレンジ色のアイコンの右側にある2つの英文である。

【1】In case of emergency, you can talk to the train crew via intercom beside the door.
 → In case of emergency, you can talk to the train crew via the intercom beside each door.

ここは冠詞の使い方に疑問があった。特に末尾に「the door」とあるが、読者がどのドアか特定できているかは不明だ。定冠詞theは読者が知っているものに対して使う。図をよく見ると、車両の前後どちらのドアにも「SOS」アイコンがある。つまりどのドアの脇にも通話装置があると考えて「each door」を使った。


【2】Please notify the train crew immediately if you find any suspicious items or unattended baggage.
 → If you find any suspicious items or unattended baggage, notify the train crew immediately.

英文テクニカルライティングだと、文の最初に条件節を書くとされている(Googleの例)。どのような条件であればこの文を読み進めればよいのか、最初に提示するためである。つまり、不審物などを見つけた場合にのみ全文を読めばよいので、読者に余計な負荷をかけずに済む。
また、指示文に「please」は不要とされている(同じくGoogleの例)ので削除した。日本語的な発想だと失礼な感じがするが、英文テクニカルライティング的には問題ない。


続いて、ノートPCと携帯電話のアイコンの右側にある2文である。

【3】The power outlet located in your armrest is for laptop or mobile phone only. Be aware that supply voltage may shutdown or fluctuate.
 → … Be aware that supply voltage may shut down or fluctuate.

文自体は変えないが、shutdownは基本的には名詞の扱いである。だから「shut down」の方がよいのではと思われる。


【4】Please be considerate of other passengers while using your device.
 → While using your device, be considerate of other passengers.

ここも【2】と同様、(1)条件部分を最初に書き、(2)pleaseを削除した。


続いてWi-Fiアイコンの右にある英文である。

【5】Free Wi-Fi service is available in this train.

この文も変更はしない。しかし単にWi-Fiが使えると書いてあるだけでは、読者にとって親切ではない。どうやったら使えるかという情報があった方が望ましいのではないか。


最後に「i」のアイコンの部分である。

【6】Please check here for operating information.
 → For operating information, visit our website using the QR code:

ここは大幅に変えてみた。まず、前述のように条件部分(For operating information)を前に置いた。
続いて、元の文の「here」である。自分が一読した際、hereが何を指すのかすぐに理解できなかった。図をよく見るとさらに右側にQRコードがあるので、これがhereを指すものを思われる。実際に試してみると、QRコードからURLを読み取り、そのウェブページにアクセスして運行情報を得るという流れだった。そうであれば、この流れを明示した方がよいのではないかと思い、上記の英文に書き直した。
また文末にコロン(:)を付けた。コロンは後に情報が書かれているという目印になるので、ピリオドで文を終えるのではなく、コロンを使った。



各文について検討してみたが、実は文レベルだけではなく、情報全体の構成方法も工夫した方がよいのではと感じた。

写真を見ると、中点の後に日本語と英語がリストでダラダラと並んでいるような印象がある。そのため、明示的に「見出し」を付けた方がよいのではないか。見出しがあれば情報を見つけやすい(Googleスタイルガイド)。現状では左端のアイコンが見出しっぽくなっているようだが、リスト項目を読んだ後で初めて見出しだと気づく。それならば見出しの役割は果たしていない。付けるとしたら、たとえば以下のような見出しである。

■ Emergency
・In case of emergency, you can talk to the train crew via the intercom beside each door.
・If you find any suspicious items or unattended baggage, notify the train crew immediately.

■ Power outlet
・The power outlet located in your armrest is for laptop or mobile phone only. Be aware that supply voltage may shut down or fluctuate.
・Please be considerate of other passengers while using your device.



また、現在は英語と日本語が交互に書かれている。もし英語と日本語を分けて別々のエリアに書いておけば、ある言語での情報をいっぺんに見渡せるはずである。情報の見つけやすさを考えたら、そのような全体構成にしてもよいかもしれない。
著書/訳書
血と汗とピクセル
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