『フリー』の著者であるクリス・アンダーソンが Wired に記事を書いています。

In the Next Industrial Revolution, Atoms Are the New Bits
http://www.wired.com/magazine/2010/01/ff_newrevolution/

要約すると以下のような内容です。
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この 10 年間で、インターネットのおかげで出版や放送を行なう人が増え、「ビットのロングテール」現象が起こった。
今後 10 年間で、これと同様なことが「製造業」でも発生する。「原子(atom)のロングテール」と言うべき現象である。
アイデアを持つ人であれば、個人でモノを製造して販売できるようになる。

この現象は 2 つの要因に後押しされる:

(1)安価で高性能なプロトタイプ製作ツールが普及する
例えば「MakerBot」は、3 次元プリンターを 1,000 ドル未満で販売している。これはプラスチックで立体を形成する機械である。

(2)中国の工場にカスタム製品を発注できる
インターネット経由で注文を受け、クレジットカードなどでの支払いが可能な企業が増えている。「Alibaba.com」などを見るとそういった工場は見つかる。


アイデアから販売までの手順:

1. アイデアを出す
すでに特許が出てないか確認するした方がよい。

2. デザインする
Blender などの無償のツールで 3 次元のデジタルモデルを製作する。

3. プロトタイプを作成する
MakerBot などの 3 次元プリンターでプロトタイプを作成する

4. 製造する
小規模ならガレージでもよいが、世界を目指すなら中国に発注する。

5. 販売する
オンラインで消費者に直接販売するか、E コマースサイトを利用する。
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技術の発展により、それまで巨大な資本を持つ企業にしかできなかったことが個人でできるようになりました。
出版や放送の例を挙げるなら、ブログや Youtube の動画です。これらはビット(電子データ)を扱うため、容易にコンピュータで処理したりネットワークで伝送したりできます。
コンピュータの低価格化やネットワーク帯域の増大によって、資本の少ない個人が出版業や放送業を始められるようになったのです。

上記の通り、アンダーソンは今後 10 年で同じ傾向が物理的なモノにまで及んでくると言っています。つまり、個人で製造業を始められるということです。
ただ注意したいのは、町工場に代表されるような、いわゆる「ものづくり」的な製造業ということではありません。
個人が担うのは、アイデアやデザインといった知識集約型の部分であり、実際の製造という資本集約型(場合によっては労働集約型)の部分ではないのです。
アンダーソンは Jawbone というノイズキャンセラーを製造している企業を例に挙げています。ここは工場は持たず、製造はすべてアウトソーシングしているようです。

アンダーソンの予想が的中するなら、GDP における製造業の割合が大きい日本は、不利な立場に立たされるでしょう。
ブログなどの個人メディアの発展により、収益を脅かされる新聞社や出版社と同じ立場です。
アイデアやデザインといった知識集約型の部分をいかに伸ばせるかで、今後の日本経済の行く末が決まるような気がします。
(Apple の台頭を見れば、もう始まっているのでしょうけど・・・)
【補足: 2010/3/6】
この記事の最後に、「GDP における製造業の割合が大きい日本は、不利な立場に立たされる・・・」云々と書いたがここは表現が必ずしも正しくないかもしれない。
というのも、アンダーソンが語っているのは「ロングテール」の部分である。そのため、既存の大企業が手がけている部分と直接競合するとは限らない。
ただ、「Aliph makes bits and its partners make atoms, and together they can take on Sony.」とも書いているので、従来の大企業に取って代わりうるということも考えているのだろう(Aliph はノイズキャンセラーを製造している企業)。