「マーケティング マイオピア」(Marketing Myopia)という言葉がある。セオドア・レビットという学者が 1960 年に提唱した。マイオピアとは「近視眼」という意味である。

これは、自社の事業ドメインを狭く定義してしまい、そのために収益機会を逸することをいう。有名な例では、アメリカの鉄道会社が自社を「鉄道会社」と狭く定義してしまったがために、新しく興った自動車産業や航空産業から圧迫された。鉄道会社が自社を「輸送産業」であると広く定義していれば、新しい変化に対応できたはずだという話である。また、ハリウッドの映画会社も「映画会社」と定義せず、「娯楽産業」と定義すべきだったという指摘もある。

日本の企業でも、例えばセコムは自社を「ガードマン サービス」だけに定義せず、広くセキュリティ会社と定義することによって成功を収めている(セコム社長の話)。単にガードマン サービスと定義していたら、「ココセコム」のようなセキュリティ サービスは生まれなかったかもしれない。



同じことは翻訳者や翻訳会社にも言えるだろう。自らを「翻訳する人」や「翻訳サービスを提供する会社」と定義することで、収益機会を逸している可能性がある。特に翻訳単価下落で悩んでいるフリーランスや企業は、自らの事業ドメインを広く定義してみることで、新しい機会を見つけられるかもしれない。例えば業界大手の SDL は自社を「情報管理の分野において世界規模で活躍するリーディングカンパニー」と呼んでいる(リンク)。翻訳の「ほ」の字も出てこない。

かく言う私もプロフィールに「翻訳者」と書いている。これは他人に自分の仕事を説明するときに楽なので使っているが、この言葉に引きずられてマイオピアに陥らないよう気をつけたいと思う。実のところ、あまり翻訳者という職業名にはこだわってはいないが……。


(最近のブログは翻訳業界の話題ばかりなので、もっと IT について書こうかな。翻訳業界に興味の無い方、すみません)