数日前ですが、翻訳関連で面白い内容の記事がありました。

 「"ヒドイ画質と翻訳"のほうが大人気」アメリカの日本アニメ市場に何が起きているのか?
 http://www.cyzo.com/2012/01/post_9647.html

アメリカで販売しているアニメ DVD の売上が落ちているので、バンダイが事業から撤退するという話です。その原因として、翻訳の質は悪いながらも無料かつ早く配信されるストリーミングサービスを使う層が増えている点が挙げられています。以下に一部引用します。
こうしたストリーミングサービスでは、日本で放映されたテレビアニメが、ほぼ時間差なく配信されるようになっている。もちろん、画質は荒いし、何よりも翻訳の質は最悪だ。だが、翻訳の質よりも、"早く見ることができる"ほうがニーズがあるのが現状。

また、このような翻訳文をソフト化(DVD 化)する際にも流用しており、アニメ翻訳者が困っているという話も出てきます。
ソフト化の際にも翻訳を改善することなどせず、そのまま流用している。それでも多くのユーザーのニーズを満たすことができているのだ。結果、まず干上がりかけているのはアニメの翻訳家たちだ。

つまり、次のような状況になっているようです。

 (1)ほぼリアルタイムの翻訳が求められている
 (2)翻訳の質を改善するのにコストをかけない

このような傾向はアニメ翻訳のみならず、私がかかわっている IT 分野でも該当します。以下では特に(1)の問題を取り上げてみます。


◆ 通訳に近づくリアルタイム翻訳

一部のソーシャルゲームでは、数時間や数日でゲーム内容を更新するようです。世界中にユーザーのいるゲームの場合は翻訳が必要になりますが、外部業者に出していては間に合わないので、社内常駐の翻訳者を雇っているようです。つまりリアルタイム性が求められているのです。また、ソフトウェアのアジャイル開発が広く採用されるようになれば、その傾向には拍車がかかるでしょう(関連記事)。訳にリアルタイム性が求められるという点で言うと、「翻訳」というより「通訳」に近いように思えます。もちろん翻訳作業時に辞書を引くくらいの時間はあるでしょうから、程度の問題ではありますが。

リアルタイム翻訳のニーズが高まっているのであれば、そちらに活躍の場を求める翻訳者が出てきても不思議ではありません。例えば在宅フリーランスであっても、スカイプなどを使ってクライアントと直接やり取りすることで、リアルタイム性という価値を提供できます。必要なのは「クライアント → 翻訳会社 → フリー翻訳者」という従来のビジネスモデルを克服できるかという部分でしょうか。

では逆に、リアルタイム翻訳をしたくない翻訳者はどうすればいいのでしょう?リアルタイム翻訳が即時性で価値を生み出せるとするならば、従来通りの翻訳は時間をかけることによって価値を生み出すということでしょうか。すぐに思いつく例であれば、推敲を重ねたり、調査を徹底したりといったことです。あるいはその時間を使って、別の価値を付加するという手もあるはずです。あまり良いアイデアが出ませんが、これからであれば例えば「訳文を電子書籍のフォーマットに落とし込む」などです。

いずれにせよ、市場が変化すれば、従来通りの方法で続けることは難しくなります。いくら質の良い馬車を作る職人でも、自動車が登場すれば仕事は無くなります。市場の変化には注意を払って柔軟に対応したいところです。

以上です。