先日、翻訳業界の一大イベントである第25回翻訳祭に行きました。

セッション1は「翻訳者の皆さんに知っていただきたい、多言語ソフトウェア開発側の苦労」に参加しました。ソフトウェアのインターナショナリゼーション(I18N)に関する話です。I18Nとは、ソフトウェアを翻訳(ローカリゼーション)して多言語化しやすいようプログラミングしておくことです。実のところI18Nに関してまとまった情報はあまり出回っておらず(日本語書籍は10年以上出ていない)、全体像を確認できました。
セッション3は「次なる未来『トピック指向時代』の翻訳に挑む!」です。説明書などを1つの冊子規模ではなく、完結した1トピック規模で執筆から翻訳まで取り扱おうという話です。品質に関していかにクライアントと合意を取り、いかに日本語を執筆するかといった内容で、期待していたよりも有益な話題が多かったです。
(※追記:セッションの概要は後日JTFジャーナルに掲載されると思います。)

参加したセッションはどちらも「翻訳前の段階」を扱っています。しばらく前からですが、良い翻訳文を作るには原文自体の品質(や多言語化の仕組み)を改善しなければならないのではないかと感じています。もちろん文学作品などでは、翻訳者が原文自体を「改善」するわけにはいかないので、ソフトウェア翻訳のような分野での話です。
料理に例えるとこういうことでしょうか。すなわち、プロの料理人であれば与えられた食材で可能な限り良い料理を作るべきである。しかしその料理に適した食材でなければ、さらに質を上げることはできない。そこで農家に直接出向き、目指す料理に合うような食材を栽培してもらう。ここでもちろん料理人とは翻訳者、料理とは訳文、食材とは原文のことです。つまりは「畑」の段階から良い翻訳を作るということです。

翻訳祭は実際に翻訳する翻訳者というより、企業に関係するセッションも多くあります。ただ前述の通り、特に実務分野における全体的な翻訳品質は「翻訳段階」だけで高められるのではなく、それ以前の原文の「制作段階」から関係すると考えています。つまり「ソースクライアント企業 → 翻訳会社 → 翻訳者」というプロセス全体で翻訳品質が決まるということです(実際はこれら提供側だけでなく最終ユーザーも考慮すべき)。そのような企業も含めたプロセス全体として翻訳を考えられるという点で、翻訳祭(とJTF)は貴重な場所だと感じました。