最近Google翻訳の性能が上がり、翻訳の仕事が無くなるのではないかと危惧している翻訳者や翻訳会社も多いようだ。

しかし、それは「翻訳」を狭く考えすぎなのではないかと思う。
機械翻訳の目的は「入力文fを自然な出力文eへと変換すること」(『機械翻訳』2014年、コロナ社、p. 62)とされている。これは翻訳学で言うところの「等価」の発想である。しかし、現在の品質評価では等価に加えて「目的」に適っているかどうかも重視される。つまり翻訳は、単に入力文と出力文だけで成り立つのではないということである(この辺りについてはこちらのブログ記事を参照)。

実のところ、翻訳では原文のライティングから最終読者の反応まで考える必要があると思う。良い訳文を作るには、そもそもクライアント側で書く原文が良くないといけない。また、良い訳文かどうかの判断は訳者の独りよがりではなく、読者の反応も考慮に入れないといけない。要するに、以下の図のようになる。



もし、翻訳者や翻訳会社が機械翻訳(MT)と同じ範囲(赤い矢印の部分)の仕事しかしていないのであれば、機械翻訳に駆逐されても不思議はない。
機械翻訳に駆逐されないためには、機械翻訳と重複していない範囲も仕事として力を入れるべきではないか。例えば実際、クライアントと協力して「良い原文を作る」ことをビジネスにしている翻訳会社もいるようだ。

図を見ると、青い矢印の「翻訳」の範囲は赤い矢印の「MT」の範囲よりも広い。翻訳者や翻訳会社には、駆逐どころか、新たなビジネス・チャンスが転がっているようにしか見えない。当然、今までとは違う行動をしなければならないだろうが……。