先月発売された『自動翻訳大全』(坂西優/山田優・著、三才ブックス)を読んだ。読む、書く、聞く、話すという英語を使う場面で、自動翻訳(機械翻訳)を活用する方法を解説した書籍である。



実は私も以前、ITエンジニア向けに書いた『ITエンジニアのための英語リーディング』という本の中で、機械翻訳を援用してうまくライティングをする手法を解説した。ただ、基本的にリーディング本だったので、補足程度に4ページを割いただけだった。

ITエンジニアのための英語リーディングp172

(『ITエンジニアのための英語リーディング』p. 172-173より)

私はライティングで機械翻訳を活用するポイントとして以下の2点を挙げた。
・文を短く切る
・主語と目的語を明示する


当時は2017年で、「ニューラル機械翻訳」が一般に使われるようになって1年も経っていなかった頃だった。しかしニューラルが普及してその特徴が明確になり始めた現在、果たして上記2点はまだ有効なのだろうかという疑問を抱きつつ、『自動翻訳大全』を紐解いた。

結論から言うと、この2点は今も有効なようであった。
『自動翻訳大全』では「『書く』ためのポイント」として、6つの点をまとめている(p. 136)。そのうち以下が私の2点に該当する。
2. 文章は短く、シンプルにする。1文が長い場合は、2文にわける。敬語は使わない。平語で書く。
3. 主語(「誰が」)は省略せず、ハッキリ書く。また、所有格(「誰の」)や時間情報(「いつ」)を明確にする。文末の句点(。)は省かず、必ずつける。


『自動翻訳大全』では、ほかに4つのポイントを挙げている。たとえば「日本語特有の比喩、慣用句、オノマトペ(擬声語)は使わない」である。つまり、私の著書ではカバーされていない具体的なノウハウや知見が記載されており、機械翻訳を英文ライティングに活用したい人にとって有益だ。



機械翻訳の質が向上したと聞くと、どうしても「英語を学ばずに済む」という話になりがちだ。しかし『自動翻訳大全』を読むと、やはりある程度の英語は学んでおかなければならないという感想を抱く。

というのも、機械翻訳の出力が妥当で信頼できるかどうかは、結局、英語を理解できなければ判断できないからである。たとえば前述のライティングで利用する場面では明らかである。
また、たとえば『自動翻訳大全』ではリーディング時に活用する際、「コンマのない長文は『5つの接続詞』で区切る」というポイントを挙げている。5つの接続詞とは、before、after、when、if、butである。そもそもこういった単語を知っていたり、接続詞という概念を理解しておいたりするには、最低限の英語を学んでいなければならない。



『自動翻訳大全』の共著者である関西大学の山田優さんは、翻訳業界では著名な人である。ただし「機械翻訳万能派」のようなイメージを持たれ、翻訳者から批判を受けることもあった。しかし本書の「おわりに」(p. 280)にはこうある。
しかし、今の自動翻訳は、語の配列のデータに基づいて、非常に高精度の確率計算をしているだけです。はしょっていうと、それは、何か「似ている言葉」に置き換えているだけなのです。それでいて、高精度な翻訳を実現してしまっているからすごいのですが、逆にいえば、本当の翻訳とは、そんなに単純なものではないよ、というのが本書で、最後にどうしても伝えておきたいポイントになります。


私自身も同じく、「機械翻訳は『翻訳』をしていない」と考えている。「翻訳」は単に字面のテキスト情報だけでできるものではなく、テキスト外部にある情報も参照しなければできない。最近、私や山田さんなどでその外部情報の1つとして「仕様」も探っている(論文PDF)。

「本当の翻訳」をあぶり出すためには、機械翻訳が何であるか、どこまでできるかという理解は欠かせない。そのためにも、山田さんには不屈の精神で研究を進めていただきたいと感じる。